■【タイム・リープ〜凍結氷華〜】■
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どう動けばいいか、 まだ迷っている。 【タイム・リープ】 〜凍結氷華U〜#11 そうやって、応援が来てからすでに10日が過ぎようとしていた。 作業的には人数が少ないながらも順調だった。捜索組みも、ワタリが記憶している避難施設となりそうな建物をスノーモービルを使って虱潰しに探している。 どんな結果になろうとも捜索についてはいずれハッキリとした答えは出る。しかし、竜崎との間についてはいっかな月の中で答えが出ない。 今までだったらいくら竜崎に拒否されたとしても、突き進むことをやめる事はなかった月だが、それが今はできなかった。かといって諦めることも出来ない。 「その作業が終わったら休憩とってくれて構わないから」 任せられた改装工事の現場にて言い置くと、マットの「ラッキー」という暢気な声が聞こえて月は小さく肩を落とす。Lの後継者の癖に、なんだか月の学友たちよりも、いっそ現代的に緩い。ついでにウエディを口説くマットを尻目に月は部屋を出ると復活したモニタールームへと足を向けた。 「竜崎」 「…ではメロ、また後で。…どうかしましたか?」 触れないで下さい、と言い渡した竜崎は表面上いつもと変わらない。 月は竜崎の定位置までつかつかと歩み寄ると、設計図を広げて、机に少しだけ体重をかけた。 「栽培室のことなんだけど、もう少し土台あげられないかな…」 「…ああ」 「この辺一体、不燃物は殆ど残ってただろ?試験的でいいんだけど、幾つか机とか持って来てさ…。もう一度組み立てなおして、床部分を底上げしたい。床下に電熱線を通せば発育が容易になる」 「……そうですね。助かります」 月の描いた設計図を瞬きもせぬまま指を咥えて見つめると、小さく笑んで頷いた。 それに否応なく胸が締め付けられる。 誰よりも知りたいと思った竜崎の、一番知りたいことは何一つ、理解することができない。 こんなに傍にいるのに、手さえ伸ばせば届く距離なのに、遥か彼方にいるみたいに、遠い。 まるで砂漠に浮かんだ蜃気楼のようだ。 欲しくて欲しくてたまらないのに、手が届かない。 「それじゃあ早速明日作業に取り掛かってもいいかな。…それと、水路のことなんだけど…」 「それならワタリの方が詳しいです。ワタリに聞いてください。…それだけですか?」 「…うん」 我ながら手際が悪いと苦笑する。話したいことはもっと沢山あった。けれど、ただの事務的な話ですら続けたいと思っても続けられない。設備の事はすぐにワタリにバトンタッチされる。 これも竜崎の策略だろうか。最初月は室内に配属されて良かった、と思った。 勿論家族や他の人間の捜索も気になるが、月が改装を、メロが捜索を受け持つことによって月が知らない間にメロと竜崎が二人きりになることはない。夜はほぼ皆一緒だ。だから引き受けた。 だが、今にして思うと、地の利と日本人だという事を生かした方がいい状況で竜崎がメロとアイバーにそれを任せたのには、最大限に月を避けようとする竜崎の思惑があったからではないだろうか。 メロといつも一緒ではないと安心できるだけ、月が無茶を起こす危険は少ない。メロだってその辺の気持ちは月と一緒かもしれないが、ここにはワタリもいる。竜崎が席を外してくれ、といわない限りは月と竜崎が二人きりになることもない。 その代わり、メロは状況報告として定時の連絡をするという特権がある。夜皆と一緒の時だって、話し相手として竜崎を独占することだって出来るのだ。それに対して月が受け持つ室内の状況については大概がワタリと相談することになる。 少しでも傍にいたい。どんな話でもいいから話したい。それなのに、事務的な会話すら最小限に終わってしまう。 辛くてたまらないけれど、どうすることも出来ない。無理に事を荒立てて、これ以上嫌われるのは、…怖かった。 「プラン変更です」 それから数日後の夜、竜崎がそう切り出した。 「捜索隊の報告によると、人々は南下と北上のグループに分かれているようです。大地が凍りついたお陰というのも変な話ですが、そのお陰で場所によっては進路が海に阻まれることはありません。おそらく、大半は生き残るために南下を選んだと推測できます」 「だとすると…」 月が呟くと、竜崎は「ええ」と頷いた。 「残りは取り残された人々の救済の為に北上したのでしょう。月くん、行けますか」 それは、父である総一郎が含まれている可能性があるということだ。 恐らく父ならば北上を取るだろう。能力と前途のある相沢辺りに南下の指揮を任せてー…。 「それとも南の方が?粧裕さんと幸子さんは南下している可能性もありますが」 言われて迷う。他の皆は月の決定を待っているようで、沈黙が落ちた。 (父さんに会う―…) それは具体的にはピンと来ない話しだった。「キラじゃない」と安心しながら逝った父に「バカヤロウ」と言った記憶はまだ鮮明だ。 月を最後まで信じながら疑っていた父。キラじゃないと信じながらも、胸の奥底には不審を感じていたのだろう。 ワタリが死に―…竜崎が死に―…、残ったのは一番情報の漏れやすいその他の人間だった。 ミサには明確ではないが物証もあった。けれども総一郎は月が作ったルールに乗った。疑おうと思ったら、疑えたにも関わらず。 無性に会いたい、と思った。胸の内に仕舞った封筒の存在を服の上から確かめる。 「…北上、にする。北上するよ」 会えたら、何と言いえばいいだろうか。 ≪back SerialNovel new≫ TOP |