■【冬の陽だまり・夏の影】■ 12

【冬の陽だまり・夏の影】
―11―


「受け入れろ」
 今、追い討ちをかけるような酷い事を言わずとも、
 心の中ではそう思っても、血の通っていないかのような冷たい唇がそう押し出した。
「私を受け入れろ」
 背後から追われるような感覚にせっつかれて、照はその存在を腕の中に封じ込め、 無理に口付ける。それでしか自分の思いを訴える方法を取れない自分の浅はかさに反吐がでた。
 だが、きっと来る。
 きっと、今にも。
 だから今、えるに自分を見てもらわなければ、
 こちらに視線をむせることが出来なければ。
 二人を合わせてしまえば、
 その心を手に入れる機会はなくなってしまう気がする。
 けれど、もしこの手に委ねてくれるなら、
 傷を癒すための努力を惜しみはしない。

「っは…」
『忘れさせてください』といったえるは、従順で、照のどんな些細な愛撫にも、ぴくん、と反応させて快楽を受け入れた。
「っぁっ…ぁっ、ん」
 二人以外にいない生徒会室の、椅子の上での淫らな情交は、背信行為だ。二度目とはいえ、神聖な学び舎でこんな所業、える以外ならば絶対に行わない。
 けれど、照はえるを膝の上に横抱きに座らせ、その肌蹴けさせた着衣から覗く小さな膨らみの先をねぶる。
 まだ発達の乏しい胸へ、舌や唇で愛撫を施しながら太股に手を這わし、親指で湿気を帯びた太股の付け根を擦る。その別の感覚にまたえるの体が身悶えるように反応した。
「…っん…」
 指先を更に忍び寄せると、すっかり敏感になっているえるがぐりっと照の肩口に顔を擦り付けて抱きついている腕の力を強くした。
 既に濡れそぼった秘所に照はごくりと喉を鳴らしそうになるのを必死に制する。いくら、もうこの熱いナカを知っているとはいえ…、本能に身を任せるわけにはいかない。
「っは、ぁっあ…」
 緩やかに割目に沿って撫ぜるとぶるりとえるの躰が震え、更に愛液が滲み出て、下着を汚す。
「あぁ…」
 心地良さそうな緩やかな吐息と同じ速度で照は指を往復させると、その緩慢な刺激にえるの太股が照の手首をぎゅっと締め付けた。
 それに照は少しだけ口の端を上げる。じれったい衝動に内股を擦り合わせるえるを素直に可愛らしいと思った。頭の中から現実が乏しくなっていく。
「ぁ、ん!」
 そっと下着の隙間を縫って指を一本その胎内に忍ばせる。
「ぁ、ぁ、ぁ…」
 簡単に飲み込んだその指で既に準備の整った肉壁を擽る。
「あ、あ…っ、ふぁっん」
 指を増やせば、質量に応じてえるの喘ぎが高く鳴り、照の耳を愉しませた。
 それにドキドキと、まさしく恋をした少年のように、ドキドキと高めた鼓動が全身に強く響いて、歯噛みする。
(鼓動を早めている場合じゃないだろう…)
 押し付けられた胸元にもう一度、最後の一欠けらの理性を手放さないに自身にきつく戒めながら吸い付き、照の長い指を奥へと押し込むように埋め込むと、悲鳴のような喘ぎをあげてえるが絶頂を迎えた。
「…っひ、ぃや…ぁ…、ぁああ!」
 ぎゅうっと強く抱きしめられて、照は容赦なく勃起し膨らんだ若芽を圧迫する、すぐに襲ってくる強い刺激にえるは2度目の絶頂にからだをわななかせた。
 余韻の残る躰から指を引き抜き、ぐったりと四肢を弛緩させるえるの腰を抱き寄せ目を瞑る。
 照の身の内を熱い塊が溶岩のように湧き上がる。ズボンを押し上げる硬くなったモノに、えるも気付いているだろう。
 だが、今しがた約束したばかりだ。忘れさせるとも言ったが、きちんと避妊もすると。忘れさせる手段に行為が入っていても、その準備はしてはいない今、これ以上及ぶわけにはいかなかった。
「竜崎…」
 この躰を駆け巡る衝動という名の獣はとても御しがたい。
 いかほども味わったことのない欲望を、前後不覚の熱を手懐けようと必死になっている最中、冒されている頭は犬並みの嗅覚で照をその存在に辿り着かせた。
 没収品。
(使うのか…?)
 今朝、冬休みを目前にして浮かれ気分の下級生から取り上げたものが、照のポケットに入ったままだ。その辺のごみ箱に捨てられるような代物ではないから、未だ持ち歩いて、いる。
(私が…?)
 仮にも人のもので気がひけるが、この熱には抗えない―…。
(…本当に、…)
 愛だ恋だというものは、
(…どいしようもない…)


 ぬく、と薄い膜越しに包まれて照は瞬間息を止めた。
 同じ熱さを抱えているのに、その熱さに気を抜けば一瞬で呑み込まれそうだ。
「…どうだ?」
 ぅ、ん…と最後に小さく喘いだえるの中に、少し装着に手間取った自身の熱の塊が収まりきって照は緩く息を吐き出した後、ようやく口を開いた。
「…?」
「気持ちはいいだろうか」
「……………………」
  疑問符を頭上に浮かべ、微かに瞼を開いたえるに向かって問うと、『絶句』という言葉が似合うだろうか、机に仰向けに押し倒したえるが唖然としたように言葉を失くすのを、照は真上からじっと見下ろし、待つ。
「…大丈夫か…と聞かれるのなら、まだわかりますが…」
「大丈夫ではないのか?」
「いえ…、大丈夫、ですが…」
「では、気持ちはいいだろうか」
「……………………」
 再び、沈黙。
「…そんな、こと、聞かなくても分かるでしょう…」
 窓から差し込む冬の薄い光の中で己の体で影になったえるを、微動だとせずに見下ろしながら、頬を上気させて、質問に軽く開いた目を伏せ、顔を背けるのを観察する。
「私にとって、重要なことだ。お前の口から聞きいて確認したい」
「…、……悪くはありません」
「よくはないのか」
「……、……いえ…。…いい、ですよ。気持ち、いい」
「…そうか。私はこういう事は疎いのでな」
 逡巡した後の諦念。返答を告げた唇に軽く口付けると、えるが握った照の腕に力を込めた。

 感じるのは、眩暈?


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