■【タイム・リープ〜凍結氷華〜】■
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嫌いになったのなら、嫌いって言ってくれればいいのに。 【タイム・リープ】 〜凍結氷華U〜#12 雪と、無機質にぽつぽつと生え出たビルも、都心から離れるにつれ少なくなる。 月は辛うじて道と思しき跡に添ってスノーモービルを駆りながら前を見据えた。 陽の登っている間は強行軍で進み、吹雪の日や夜間はビルの内側にテントを張って過ごした。ところどころに温度センサーや発信機などを取りつけ、そうやって北上しながら数日を過ごした。 「夜神」 「なに」 「見ろよ、塞がってる」 北上するにつれ、山間部が増えたが、これまでは順調に足を進めていた。 それは本部に残った竜崎が状況の許す場合に衛星で現場への足取りを掴んでくれていたからだ。 けれど、急な雪崩れで、山間を抜ける為の細い道は遠くで完璧に潰れているようだった。 「マット。少しもどって、辺りの様子見てきてくれ」 月と一緒に行動することになった北上組のメロがマットに言って、マットは「はいはい」とやる気のなさそうな返事で肩を竦めると、来たばかりの道を引き返していった。 北上組みは月とメロ、マットの3人で、南下組みはアイバーとウエディとなった。 竜崎の思考を推測してみるに、沢山の人がいる場面では話術の得意なアイバーと、女性であるウエディの方が、傷を負ったメロやあまり積極的でないマットよりも向いているとしたからか(マットに関してはその場に女性がいればその対応もまた別なのかもしれないが)、 もしくは北上させるのに、Lの後継者として教育されて来たメロやマットの方が危険の伴う北上に向いていると判断したのかもしれない。 だとすると、竜崎は本当に人を使うのが上手いよな、などと苦笑し、これからどうするかと考えたところで、メロがぶっきらぼうに口を開いた。 「夜神、アンタ火薬扱えるか」 「……いや」 不本意ながら否定すると、メロが大袈裟に眉間に皺を入れた。 ぶつぶつとマットを残して置くんだった、といいながら月を置いて塞がった場所に慎重に近寄る。そして通信機のスイッチを入れるとすぐさま竜崎に繋いだ。 「L、Cの26地点が雪で通行止めだ。積雪量は昨日から変わってない。高さは3M強あるんだが厚さは分からない。除雪するには時間も手間も掛かりすぎる。火薬でふっ飛ばしたいけど、雪崩を誘発して更に埋まる確率は?」 『そうですね…理論的には2%弱、…大丈夫でしょう。その辺りは他に安全な回り道がありませんし、いってください』 「OK」 スムーズに会話を交わすと、メロは月など存在しないかのように振舞う。 さっさとワンタッチ形式のテントを貼って、中で火薬を調合し始めた。 (……僕だって、教えられれば学ぶさ) 環境さえそうであれば、きっとメロよりもニアよりも多くを学べたはずだと、悔しさを紛らわせるために言い聞かせるが、一層空しさが占拠する。 それは単なる仮説であって、現実ではない。知らない、という事実に変わりはない。ならば空しさが増すのも道理だ。 (…デスノートがなければ何も出来ないのか、僕は) ハッキングなどの情報系の技術も、月だってちゃんと持っている。けれど、今ここに来て無力さを痛感する。確かに月の頭の回転は速い。時には竜崎をも凌駕することだってあるけれど。 竜崎と一緒にいるたびに思っていたコンプレックスがむくむくと甦って月はぎゅっと瞼を閉じた。 考えることを放棄するなんてバカのすることだと思っていたが、今は切実に考えることを止めたかった。 月は今まで常に強者だった。竜崎と一緒にいる時だって対等に肩を並べてみせた。時にはその差を見せ付けられることもあったが、竜崎は年上で、しかも端から『L』だった。だから、深刻にならずに済んだけれど。 メロやマットは違う。月よりも年下で、しかもかつては格下だと笑っていた。メロの行動力は恐ろしいが、それでも月の敵ではないと思っていた。そのメロにさえ、負けるー。 竜崎が一体幾つなのかは知らないが、こっちに来てから月と竜崎の年の差は確実に埋まっている。そうやって竜崎に近づいていて、竜崎亡き後『L』として4年もの間を費やしていてさえ、それは仮初。月は『L』としての本来の機能の何一つ努めてなどいなかったのだ。 ズキズキと頭が痛んだ。目の奥がチカチカする。 (竜崎は―…分かっていて僕を北上させたのか?) アイバー達と共に南下する道をとっていたら、こんな気持ちにはならずに済んだだろう。あの二人ならば、当然月が指揮をとることになるだろうが、北上するに当たっては、メロが執ったほうがより難い。所詮No2ではない。ワイミーズのNo2にまで上り詰めた相手だったのだ。 月が警察に4年勤めた記憶があっても、こういった作業になると不得手だということは竜崎なら簡単に分かったことだろう。キラの記憶を持つメロと足並みが揃うはずがないことだって承知していた筈だ。ならば、それでも月を北上させたのは、月を打ちのめすためだった可能性だって否定はできない。そう思うとおかしくて、月は自嘲気味に笑った。 (そこまで嫌われたのか―…?) 竜崎は月のことを嫌いではない、と言った。けれども同じ口で『触らないで下さい』と月を否定したのだ。 もし、これが月はいらない、という意思表示なのだとすれば。 胸が熱く、軋んだ。 ≪back SerialNovel new≫ TOP |