■【Lovers】■
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◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇side 英 信じられねぇ! ドイツとイタリアの言葉に棒立ちになっているイギリスに、ドイツは盛大な溜め息をイタリアは曖昧な笑顔を向けてからイギリスの部屋を出ていった。イギリスは力の抜けてしまった体でよろけるようにベッドに座り込んだ。 (なん…だって…?!) 耳を疑う…というか頭を疑ってみたが、先程聞いた言葉に間違いは無い筈だ。 (だって…だって俺だぞ?!) 今まで嫌われ者として誰も積極的に関わってこなかったでは無いか。それが性別がちょっと変わっただけで、こうも変わるなんて信じられない。乳がついてればそれでいいのか。ありえない。 (そりゃ…例えば、日本が俺と同じ状況に置かれたとしたら…、あるかもしれねーけど…!) 奥ゆかしくて、気のきくいい奴だ。元々中性的な顔立ちだし、筋肉はついていなくはないが、全体的に細い。肌も男にしてはきめ細やかで、きっと女の子にしたらそんなに胸は無さそうだが、触れ心地は最高だろう…として想像して、イギリスはちょっとときめいた。 (…って、違うだろバカぁ!) 日本は友達だ。そんな疚しい目で見てはいけない。 (ええっと、そうじゃなくてだな…) これは多分例えが悪かった。最初から憎からず思っている相手だ。他の相手に渡すくらいならいっそ…と思ってしまうのは、異性で恋人が出来てしまえば友達としての付き合いに支障が出るからであって、単純にその気になるかならないかと言われれば…。 (だから違うだろ俺えええええ!……っ駄目だ!前提が違い過ぎんだろ!俺が顔も合わせたく無いヤツでないと!) では何か。ロシアなんてどうだろう…。 (…やべえ…なんか気持ち悪くなって来た…) あの容姿に胸をつけてはいけない。 それは色々なものに対する冒涜である。 イギリスはぐったりとベッドに懐いてからそれでも続きを考えてみた。 例えば容姿がベラルーシのようだったらどうだろうか。 本人そのままではベラルーシに悪いので、ロシアの姉であるウクライナと足して2で割ったようなイメージに置き換えてみた。勿論胸は巨乳である。あのガタイなら巨乳だって悪く無い筈だ。 (…あ、やべえ。何か有り得る気がしてきた…) ロシアは嫌いだし、あいつの非道さも凄惨さも知っている。しかしどこか無垢な面を持っている事も知っていた。 それが可愛いらしい容姿でにこにこと近寄られたとしたらうっかり手を出さないとは言えない。 (いや…ロシアだ。んな事にはなんねぇだろ…) だが、可愛く微笑まれて、少しも好意を感じ無いかといえばそれも別の話しだ。 (性別って怖いな…) 男女の間の友情は成り立たないというが、なんだかそれも分かる気がする。努力次第と条件次第では有り得なくは無いだろうが、それでも例えばこの世に二人きりにでもなってしまえば、あっさりとその友情は壊れてしまうだろう。 生殖を目的としない自分達のような存在なら全く無いとは言い切れないが、それでもこの身も心も人間の男女と同じ構造を持っている。人肌寂しい時、男同士よりかは男女の方が友達という垣根を越えやすいのは事実だ。 そういう前提とするならば…。 (…日本とも友達じゃなくなっちまうのかな…) それはとても悲しい。日本はああいう性格だから、そう簡単にはそんな関係にはならないだろうが、可能性として0では無いのだと思い至ってジワリと涙が滲んだ。 なんて悲しい現実だ。 そもそも極端に少ない友達が、うっかりすると誰もいなくなってしまうでは無いか。 今までは性別が変わったって自分は自分で、驚きの事実にちょっと世界がざわつく事はあっても、今まで通りに過ごして行くものだと思っていた。だってイギリスの心のありようは、何一つ変わっちゃいない。 それなのに、前提条件がちょっと変わっただけでこうも環境が変わってしまうのか。それを思うとざわりと背中に悪寒が駆け抜けた。 恐ろしい。 国の化身という立場上、友達といえども何もかも晒す事は出来ないけれど、それでも長い年月をかけて培って来たものはあって、日本とも、何だかんだあったけれど、今では穏やかに時間を過ごして、時にはほんの少し踏み込んだ話だってする事だってあるのだ。 それが全てゼロになってしまうのかー…。 ぐすっとイギリスは鼻を啜る。 アメリカやカナダや、連邦の皆とも、そうなる可能性はあるのだろうか。 そう思うとぶわりと涙が溢れて来て止まらなかった。 こんな事になってしまって、アメリカにはきっと「君は何てクレイジーなんだい!」とか言われると思ったし、カナダも対応に困るだろうとは思った。 けれども、こんなのは想定していない。 (嫌だ…ぜってー無理…) イギリスにとって彼らは未だに可愛い弟である。立ち場が変わった事は理解している。『もう君の弟なんかじゃないんだぞ!』なんて耳にタコが出来るほど何度も言われている。知ってる。分かってる。 でも、それでも。 それでも過去は変えられない。イギリスの弟であった時期は確かに存在していて、何と否定されようと、彼らが自分の家族で、短い時間ではあったけれども、それが優しい暖かい記憶としてイギリスの身を満たしてくれた事は事実なのだ。 どんなに彼らが『違う』と否定したとしても。 (俺の、家族…) 可能性として考えるだけでぞっとした。 特にアメリカはイギリスにとって特別と言っていい相手だ。 初めてイギリスを家族として認めてくれた相手だ。 不甲斐ない自分に落ち込んでいた自分に、「だいじょうぶ?」と声をかけてくれた幼い子供の声をイギリスは忘れることが出来ない。 ふくふくとした小さな手がイギリスの服を掴んだあの日を、 ずっしりとした心地よい重さを胸に抱えたあの日を、 『おにいちゃんって呼ぶね』と笑って言ってくれたあの日をー… 忘れることなんて絶対にできない。 だから、そんな目で見られたとしたらー…、なんて誰よりも考えたくない話である。 『家族でない』と言われるのは、国としては自我の確立のようなものだと思えなくもない。大人になった証拠だと思えば耐えることは出来た。だって口で何と言おうとも、事実は変えられない。だが、恋愛関係に発展するのだけは駄目だ。『家族』を恋愛感情で見ることなどありえない。そんな事は容認できない。これ以上イギリスの中の家族を壊して貰いたくはない。 (…嫌われてるからんなことはねぇとは思うが…) アメリカはイギリスの一番親しい間柄を嫌って独立したヤツである。現在は同盟国だが、やはりイギリス個人に対する態度は厳しい。何度鬱陶しいだの嫌いだのと言われた事か…。 (アメリカぁ…) 今こそ幼いアメリカに「イギリチュ♪」と言って癒やして貰いたい。 でなければ、もうこの際メタボなあいつでもいいから「くたばれイギリス!」と言って安心させて貰いたい。 現実がどう変わっても、アメリカはイギリスにとって弟なのだ。彼がどうあがいてもイギリスが育てたという過去は変わらない。イギリスにとっては、まだまだ可愛い反抗期な弟という思いしかない。だからこのさい…。 ああ、くたばれと罵られる事に安堵する日が来ようとは…。なんて自分は不幸なんだろう。 イギリスはなんだかもうワケが分からないまま泣いて、泣き疲れてしまって、うっかりと眠ってしまったのだった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇side 伊 「ふぁ〜」 ドイツが暴露しなくていい事を暴露してしまって、でもドイツだし仕方ないかぁ…と通常なら「それは俺の台詞だ!」と言われかねない事を思いつつ、昼寝に入って一時間と少し。 イタリアが「んーっ!」と伸びをしながら起きると、早くに目が覚めたのか、そもそも寝ていなかったのか、ドイツが窓縁の椅子に座って「起きたのか」と声を掛けて来た。 「うん。兄ちゃんはまだ寝てるね。もうちょっと寝かせとこうか」 なんだか寝不足だったみたいだし、と言ってイタリアはベッドを降りた。やはりいつの間にか脱ぎ捨てた服を着ながらドイツに問う。 「もしかして寝てない?」 「…やはり眠る気分になれなくてな」 着替え終わって兄を起こさないようにして部屋をでる。ドイツもその後ろについて来て、イタリアはイギリスの部屋の前で軽くノックした。返事は無い。少しだけ考えてからドアをちょっとだけ開けた。隙間から覗くとイギリスがベッドの上で丸くなっている。 「おいっ、イタリア!」 イタリアがそのままドアを開けて侵入したのを見て、ドイツが制止の声を上げたので、シィと人差し指を唇に当てて静かにするように示す。それからベッドの上を指差した。 「イギリス、靴はいたまま寝ちゃってるよ」 「しかし…」 「靴を脱がして、毛布をかけるだけだよ。あのままじゃ疲れも取れないし、風邪ひいちゃう」 イタリアの言葉にドイツは溜め息を吐くと、一緒に室内へと入って途端に顔をしかめた。 「泣いちゃったんだね」 頬を伝う幾筋もの涙の痕を発見してイタリアは親指で軽く目元に残る光の球を拭い去る。それからイギリスの靴を脱がしにかかった。 ただの革靴だけど、起こさないようにと慎重に脱がすので多少時間が掛かった。チラリと盗み見るようにドイツを見ると悲痛そうな顔でイギリスを見下ろしている。 (優しいんだよね、コイツ) 厳つくてムキムキで怒ると怖いけど、優しくていい奴だ。イタリアがイギリスの靴を脱がし終わるとドイツが壊れものを扱うようにして抱き上げた。イギリスが毛布を下敷きにして寝ていたからだ。 ドイツに抱きかかえられたイギリスが、触れた体温に在りし日の事でも思い出したのか「アメリカ…」と小さくその名を呼んだ。 ドイツの顔が一層苦くなる。 それをチラリと見遣りながらイタリアはイギリスがちゃんと寝れるようにベッドを整えて、そこにドイツがイギリスを戻すのを確認してから、上掛けをかけてやった。 部屋を出て、イタリアはほぅっと息を吐いた。 「イギリス、アメリカ呼んでたね」 ドイツがイタリアよりも長い溜息を吐き出したのを聞き届けてから、声をかけると、ドイツは苦み走った顔で「…そうだな」と呟くように声を発した。 その声音に後悔を感じて、イタリアはよく見知った自宅の天井を眺めながら出来るだけ軽い音を選んでちょっと笑いながら指摘する事にした。 「もうちょっと後の方が良かったね」 「何がだ?」 「イギリスが無防備な事指摘するの」 イタリアが天井からドイツへと視線を移すと、「…そうかもしれないが」と低く唸って「しかしそもそもお前が…」と苦言を呈するように続けたので、イタリアは「嫌だなぁ、ドイツー」と笑って答えた。 「俺だってそのくらい分かってるよー」 「…どういう意味だ?」 「別にエッチな事が目的で一緒に寝ようって言ったわけじゃないよー。そうしないとイギリスが寝られないかなって思っただけ」 「…何?」 「一人になるとあれこれ考えちゃうでしょ?でも一緒にいたら少しでも気が紛れるじゃない。だから一緒に寝ようって言ったんだー。…脱いじゃうのは誤算だったけどね。まぁイギリス気にしなさそーだったし」 「………………」 ドイツが額に手を当てると悩ましげに息を吐く。 「…すまなかった」 「んーん。俺も先に相談しとけば良かったよー。ごめんねドイツ。後悔してるんでしょ?」 「…少し、な」 「少し?」 「…かなり」 「そんな顔してるよ」 イタリアが笑ってみせると、ドイツも釣られたように笑みを見せた。 (コイツはむきむきで強面だけど、ちょっと笑っただけで、随分と優しい印象になるんだよねー、) 「あのさードイツ」 「…何だ?」 「もしかして俺が寝てる間にイギリスが帰っちゃわないように起きててくれた?」 「…それもある」 「そっか、有難ね。でさ」 「ん?」 「イギリス起きたら二人だけで話していい?」 「…別に構わないが」 何故了解を求めるのかと怪訝そうな顔をするドイツにイタリアは言った。 「本当はもーちょっと後にしようって思ってたんだけど…」 呆然とするドイツに事情を説明して、複雑そうな顔をしているドイツと一緒に夕飯を作った。途中で起きてきた兄も手伝ってくれて、仕上げだけになるとイタリアはドイツに告げていた通りにイギリスの部屋に向かう。 トントンとノックをしてみたが、イギリスは未だ夢の住人らしい。 部屋に入ると赤い西日が薄暗くなった室内に彩りを添えていた。 イタリアはベッドに近寄るとイギリスを揺り動かす。 「イギリス、起きて。ご飯出来るよ」 あまりに疲れていたのか、そもそも寝起きは得意で無いのか、イギリスの潤んだ瞳がぼうっとイタリアを眺めるので、イタリアはニコリと笑ってみせた。 「…イギリス、起きた?」 微笑んで数秒、イギリスが跳ね起きてイタリアと距離を取った。その姿はまるで手負いの野生動物のようだ。 (うーん。想像した通りだぁ) イタリアが目をまるくしながら眺めていると、イギリスは頬を薔薇色に染めて、「帰る!」と開口一番にそう言った。 「イギリス、待って。俺の話を先に聞いて?」 「……………話?」 警戒しながらこちらを伺うイギリスに、イタリアはうん、と頷いて告げた。 「イギリス、俺と付き合う気ない?」 ざっとイギリスの血の気が引くのが分かった。イタリアは慌てて言葉を継ぐ。 「俺、イギリスの気持ち、よく分かるんだ!」 「……な…に」 「失うのが怖いのも、恋するのが怖いのも、自分の気持ちがよく分からないのも!」 「なっ!お前…っ」 「あっ、ドイツに聞いたんじゃないからね?!昨日話してたの聞こえちゃって…」 ごめんなさい、と謝るとイギリスは何事か口にしようと何度か唇を開閉して、最後に「…そうか」とつぶやいた。 「…それで?」 「うん。イギリス俺の初恋って知ってる?」 「…そんなもん知るわけねー…………あ」 「うん。多分その子であってるよ。俺、アイツの事好きだったんだ…」 「…そうか」 「俺さぁ、何度も一緒にならないかって言われててね。凄く嬉しかったんだけど、でも全部断ったんだ…」 「………」 「何でだと思う?」 「…………」 「怖かったんだ。イギリスと理由は違うけど、爺ちゃんが消えちゃったのが大きくなり過ぎたからだったから、一緒になって消えちゃうのが怖かった。失うのが怖かった。…でもアイツ消えちゃった…」 口端を無理に上げた。今でも深く話題にしようとすると、泣きそうになる。 「…イタリア…」 「…俺、ずっと待ってるって言ったんだ。ずっと待ってて、でも心の中でアイツはもう帰って来ないんじゃないかって思ってて、フランス兄ちゃんにもう帰って来ないって言われるまで自分騙してずっと待ってた…」 思いだすだけで胸が抉られるように痛む。でももうあの子の事では泣かないと決めた。 「俺、それ聞いてから暫くずっと泣いてて、爺ちゃんいなくなった時よりも泣いたんだ。認めちゃうと後悔ばかりが押し寄せて、待ってる間に記憶が脱落して思い出せなくなってたのがまた悲しくて泣いて、俺こんなに苦しいならもう恋なんてしないって思った」 「…そうか」 イギリスがこっちを見て、それから何かを堪えるようにぎゅっと瞼を閉じた。 イタリアは悲しみの瘧をやり過ごして続ける。言葉を尽くさなければ何も伝わらないと思った。きっとイギリスには届かない。だから続けた。 「でもね、そうやって過ごすのも辛くてさ。だって後悔してる間って良かった思い出全部悲しい思い出になっちゃうし…。何事も無いように振る舞ってる間に色々忘れていっちゃってさ。アイツの声とか体温だとか台詞だとか、ちょっとずつ欠けていって、凄く悲しくて忘れちゃいたいって思ったのに、ずっと待ってるって言ったのに忘れちゃったことが辛くて自分を責めて…。忘れたいのか、忘れたくないのかさえもうどれが自分の本音なのかも分かんなくて、俺、バラバラになっちゃうんじゃないかって思ったんだ。いっそこのまま同じ所に行けたら、って思って。アイツに逢えたらきっと全部が解決する。きっと「大好きだぞ」って笑って迎えてくれるんじゃないかー…って思って。そんな事想像したのに俺ー…アイツの笑った顔思いだせなくてー…凄く辛そうな顔しか想像できなくてー」 指先も唇も震えて、イタリアは視線を落とした。 眉間に皺を寄せて目を瞑ったまま大人しいイギリスの手を見て、それに手を伸ばしそうになるのを無理やり止めた。 やっぱりまだ、この話題は辛い。せめて人の体温が欲しい。 でも、まだ、イギリスに届いていないからー…。 「俺さぁ、アイツが泣いたりとか、悲しそうな顔とか見た事なかったんだよ。でもさー、記憶薄れるのに、今会ったらきっとアイツ泣くんじゃないかって想像はついちゃったんだよね…。怒りながら泣いて、後悔するんじゃないかって。『そんなお前見たくなかった』ってさ。アイツ、強引だったけど、優しくてさ。優しくしてくれたのが凄く嬉しくて。でも、今の俺見て後悔するんじゃないかって…、優しくしなければ良かったって、好きだって言わなきゃ良かったって思われたらー…それって悲しいじゃない?好きになったのも好きになってくれたの、凄く嬉しかったのに、なかった事にされちゃったら凄く悲しい。そう思ったら、これじゃいけないって。アイツはきっとこんな俺見たくないに違いないって。だったら生きてる間、もっともっと楽しい事嬉しい事しようって思ったんだ」 「………」 「自己満足。…ただ自分が楽になりたかっただけかもしれないんだけど…」 「それは…」 現実に弱音を吐いて、それで初めてイギリスと視線があった。 イタリアはイギリスに情けない顔をしている自覚をしながら、それでもへらりと笑いかけた。 「答えなんてその時の自分の気持ち一つでひっくり返るものじゃない?」 イギリスの瞳が泳いでいるのを見つつ、イタリアは苦笑してイギリスに言った。 「誰にも自分自身でさえ本当の気持ちなんてきっと分かりっこないんだよ、イギリス」 「………」 「でも、未来まで今と同じ気持ちとは限らない」 「……お前は、何が言いたいんだ?」 「今はここにいて欲しい」 「……どういう、意味だ?」 「ねぇ、少しだけ一緒にいようよ。イギリスが恋が怖いの分かってるけど、少しだけ一緒にいよ?自分に素直になりなよとか言わないからさ。だって辛いのだって本当の事でしょう?」 違う?と聞くとイギリスの目が潤んだ。 「でもさ、俺、幸せになりたいんだ。お前に会えたお陰で幸せで、あの日があったから、今も幸せですっていいたいの。だって過去は消せないでし?消していいものでも無い、今の自分を構成する一部で、なくなったらもうそれは自分じゃ無い大切なものだよね。だから俺、今の自分嫌いじゃない。だから俺、沢山痛い思いをした今のイギリスも嫌いじゃないよ」 イギリスの両目が大きく開かれる。ころりと大きな雫が溢れ落ちた。 「…本当はさ、アイツいなくなってから恋ってよく分からないんだ。アイツの時みたいな気持にずっとなれてないから、うんと長く生きてる癖に未だにまだ童貞だよー」 みんなには内緒だよ?とイタリアは人差し指を立てて小さく笑った。 「でもね、ふわふわで暖かくて、もしもいつか別れが来ても笑って一緒にいられて良かったって言える恋がしたいんだ。隣にいると幸せで、つられて笑っちゃうような関係。その人がいないと夜も日も明けないなんて、そんな激しいものじゃなくていい。優しいだけのそれでけでいい。ねぇ、イギリスはどう思う?変かな?ダメかなぁ?」 「…別に…いいんじゃないか…」 返事があったのでイタリアはうん、と頷いてイギリスの手を取った。イギリスは逃げる事もなく、大きなペリドットの瞳をイタリアに向けている。 透明な透き通った湖の色みたいだなぁ、とイタリアは思った。 「『付き合う気はない?』って言ったけどさ、俺、イギリスに恋をしてるかは分かんないんだよね。でも、俺、お前にも幸せになって欲しいし、俺だって幸せになりたい。だからさ、付き合うのもいいかなって思ったんだ。ねえ、イギリス。俺、お前の優しそうな笑顔が可愛いなって思ったし、その笑顔を俺なりに守ってもあげたいし、寂しい時には傍にいたいてあげたいんだ。それで、一緒に笑ってられたらいいなって思う。これが恋でも友情でもどっちでも構わない。ただ、恋人のほうがより近くにいられるし、幸せになれるんじゃないかって思うから」 うん、とイギリスが言った。 「無理して変われだなんて言わないから。だから怖がらないで。ここにいて。」 ≪back SerialNovel new≫ TOP |