■【タイム・リープ〜月の選択〜】■ 05

「ね、竜崎。ちょっとだけ」
「本当に拒否したいことには、前例を作らないことが肝要です」


【タイム・リープ】
〜月の選択〜#5



竜崎の食事は糖分、月の食事はその他のもの、と決められているのもあって、月はこのところ甘みのあるものを一度も口にしていない。
別に甘いものが嫌いというわけでもないから、普段からコーヒーもブラックを好む月も少しばかり甘いものが欠如している。だからといって、甘いものしか食べない竜崎の食料を奪うような真似はできなかった。竜崎も先が長いことを知って、以前口にしていた量をとってはいない。明らかに摂取量を少なくしている今、更にそれを奪うような真似はできなかった。
ともかく、四方八方から躰は欲求を満たしてくれと要求してくる。それらに苛まれている状態であの口付けは不味かった。何しろ竜崎の咥内はとっても甘いし。キスならば食料を減らさずとも月も甘みを味わうことができる。
(それに、生命の危機を前に生殖本能が活発になるというのは本当みたいだな)
と月は苦笑した。
特に夜間は危険だ。竜崎が眠っている時は尚更に。暖を取るために火を絶やすことは出来ないからそこそこの明るさがある。だからふと視線を巡らせば、竜崎の穏やかな寝顔を見ることができる。やることがあればその寝顔に没頭することもないかもしれないが、如何せん切迫した考えごとすらない。夜さえ凌げば、と思っても、吹雪くとその忍耐は昼間にも要求される。建物の中でもやることがないではないが、安全な建物の中という思いからもいつ本能が制御を失ってもおかしくないと思えた。
毎日毎日が資材集めと途方のない探索ではストレスだってたまる。
「だからさ、いいストレス発散だと思わない?少しくらいいいんじゃないかな?」
「思いません。よくありません」
こうなったら、相手が男であろうが竜崎であろうが関係ないと割り切ってアプローチする月に竜崎はにべもない。
「そんなに誰かとしたいんでしたら、もっと頑張ってさっさと人を見つけてください。私は御免です」
「何で?確かに滑稽だけど、気持ちいいと思うよ?相手が男でも別に関係ないって」
「そんなの知りませんし、関係ないわけがありません」
「知らないって、もしかして竜崎したことないとか?ああLだもんな、そういう相手を見つけるのも大変そうだよな。でも、それはダメだよ。Lなのに知らないってそれは不味い」
「全く不味くありません。…というか、月くん。それって私が突っ込まれること前提に話してませんか。ご自分はどうなんですか。男のイチモツを突っ込まれてもいいと?」
「………う………」
「ほらみなさい。最悪な気持ちになったでしょう」
「…じゃあもうキスだけでいいから」
「………月くんはこっちに来て頭が悪くなったんじゃないですか?」
「失礼な事いうなよ。取り繕う必要がなくなっただけだ」
「じゃあ、頭が悪いのを隠していただけなんですね」
「だーかーら、そういう意味じゃなくってさ」
「新世界の神になろうとしていた男が肉欲に溺れたいとは情けない」
「もう情けなくても構わないさ。そんなプライドは棄てた」
「………棄てないでください………」
竜崎が心底嫌そうに溜息を吐く。月は大っぴらに開き直って肩を竦めた。
「だいたい食欲・性欲・睡眠欲の3大欲求全部が満たされないなんてストレスに直結だよ?」
「ですから、睡眠は譲歩すると言っているじゃないですか。それに、お一人で世界の建築家の中に入ってたグラビアアイドルでも思い出しながらマスを掻くぶんは構わないと」
「…随分下品な口だよね…」
「私に上品ぶらなければならない理由がありますか?」
「そんなんで僕のヤル気を削ごうとしても無駄だよ?…っていうか」
「?」
「そろそろ「うん」って言っておいた方がお得だと思うよ?キスだけなら男役も女役もないんだし、僕が常軌を逸して無理やり犯そうなんて考えつかない内にさ」
「………」
「いくらお前でも全くの不眠不休は無理だろう?そして僕らはいつも共にいる。寝込みを襲うのなんて簡単だよね。…だからさ、ね、竜崎。ちょっとだけ」
「本当に拒否したいことには、前例を作らないことが肝要です…が、」
「うん」
「犯されては堪りません。キスだけですよ。それ以上しようとしたら、分かってますね?」
ギロッと睨みつけてくる竜崎に、月は分かってる、分かってると軽く了承していそいそと近づいた。

竜崎が目を閉じないので、月が目を閉じて竜崎の唇に触れる。
何度か角度を変えて口付ける間も、とりあえず竜崎は大人しくしていて、蹴りを入れてくる様子もない。それを確かめてから、真一文字に引き締められている往生際の悪い唇を舌先でつついた。
逡巡して諦めたように開かれた唇の隙間から舌を捩じ込む。歯列をなぞり上顎を舐めるとほんの微かだが竜崎の体が震えた。
それに気をよくして、ぬろりと竜崎の舌を絡めとる。竜崎の咥内はどこも絶えず甘く芳しい。自分よりも能力の低いものに下手と罵られるのは我慢ならないので、磨いた舌技を披露すると、竜崎が時々「う」と呻いた。
それに元々高かったテンションが鰻登りに上昇する。 おそらく女性関係に関しては月の方が竜崎より勝っているに違いない。そう思うと、心が沸き立つのを止められなかった。
月の中に蔓延る征服欲というのは、多分、思ったよりも、強い。
一番になりたい。一番でありたい。
誰かの下に就く事は我慢ならない。
常に強者でありたい。
SEXはその欲をてっとり早く治めさせてくれる手段だった。他にも理由は多々あるが、夜神月という体面上のパーソナリティを傷つけずに相手を負かし悦に浸るのにはうってつけだった。物足りないという事も多々あったけど。
竜崎はひた隠しにしてはいるが、その呼吸は確かに上擦っている。
そうだ、竜崎相手なら物足りないという事もないだろう、とまだ冷静な頭の片隅が愉快そうに笑うとゾクリと背筋が震えた。
っは、と浅い息を吐きながら唇を離した。何度も約束を反故にはできないし、こうやって少しずつ体に教え込ませるのも一興だ。
濃い唾液の糸を舐め取って月がにこりと笑うと、竜崎は多少上気した顔でジロリと睨みつけて来た。…堪らない。
「気は済みましたか」
「とりあえずはね」
月はここ一番という笑顔を披露してやった。



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