■【タイム・リープ〜月の選択〜】■ 09

目の前に、
 君がいる。


【タイム・リープ】
〜月の選択〜#9


3日も経てば体調もほぼ万全だ。
再び強くなって来た吹雪の為に、月も竜崎も外にでる事は叶わず、部屋を片付けたりまた各階にある資材を運んだり、解体したり改造したりする日々が続いた。
そして吹雪の日には折角だからと体も十分に休めることにした。今回の発砲事件で月は少し学んだ。ここには医薬品も揃っているが、体を壊さないに越したことはない。月が床に伏している間、外は吹雪いていたので建物から出ることは出来なかったが、もしも晴れていたなら、随分と無駄な時間を費やしたことになる。今回は月に非は無いが、撃たれていなくとも、遠からずこんな風になったような気はする。そこで竜崎にも無理は禁物だと諭して、絶対に寝込みを襲わないという条件で睡眠時間も今までよりも多めに摂る事に決めた。寝ていればエネルギーの消費も少ない。
そうして寝かしつけた竜崎の横顔を眺めながら、月はこの吹雪が止んだ後の事を考えた。どうやって、あの建物の最上階に登るか、どうやって資源を移動させるか、今後あいつらに襲われないようにするには、どうすれば…。
(…ダメだ、また集中できない…)
人が他にも生きていたのは喜ばしいことだが、生き残っていたのがあんな連中ではあまり喜んでもいられない。下手すればこちらが殺される。
そんな目の前に迫った考えことがあるにも関わらず、落ち着くことができない。
前回、竜崎の寝込みを襲った時もそわそわと落ち着かなかったが、内容に少し変化があると月は気付いた。
大きな違いは二つある。
一つは瞬発的なものではないということ。
そしてもう一つは好戦的な面白いという感情ではなくなった。
以前は竜崎が体を見せたがらないという謎が発端になって、瞬間的に欲情しただけだった。それを切欠にそれも面白いと思った。そういう理由だった。
(でも…今は…)
ただ近くにいたいから、竜崎のことを知りたいから。月の気付かなかった月の内側にまで入って来た人間だから、その相手のことをもっと知りたいと思った。
もっと距離を縮めたい。もっと傍にいて欲しい。もっと信頼して欲しい。出来れば心も体も預けて欲しい。
(竜崎の唯一無二の存在になりたい――)
そう気がついたら、心臓がドキドキして触れられなくなった。本当は堪らなく触れたいのに、そうする事が出来なくなった。
(どうすれば、いいだろう。どうすれば、手に入る?…ああ、もう、そんな事考えてる場合じゃないのに…)
ぐしゃぐしゃと色素の薄い艶やかな髪をかき混ぜる。思考はすぐに不毛な想いへと回帰した。
(今まで好意は勝手に向こうから寄せられるものだった。…こんな経験、僕はしたことはない。そして僕に寄せられた好意も何の参考にもならない…。寄せられた全ての好意はブランドのようなものだったんだから。…僕は、夜神月というステイタスに寄せられた好意をどうとも思えなかった。……もしかしたら、竜崎もそうなのかな…?)
男女の性別の前に、キラとLという間柄の前に、二人の仲を遮っているのはもしかしたらそういった意思の疎通に問題があるのかもしれない。
月が今までLとしての竜崎のステイタスしか見てこなかったから―…。竜崎の気持ちを理解しようとした事が無かったから――。

「ねえ竜崎。キスしていい?」
「……貴方は一体私が寝ている間いつも何を考えているんですか…」
「…今日は竜崎のことを、ちょっと」
きまり悪げに月が呟くと、竜崎はあからさまに溜息をついた。
「もっと考えることは沢山あるでしょう。何か知りたいことがあるのなら、出来る範囲で答えます。ですからそんな無駄な時間過ごさないでください」
「無駄じゃないし、僕の竜崎に対する気持ちに限っては、竜崎に聞いても仕方ない」
きっぱり断言した月に、竜崎は不可解そうに眉根を寄せる。
「あの日竜崎の言った事は当たってた。言われて初めて気付くなんてどうかしてると思うけど…、確かにそうだと思ったよ。僕は家族が好きだ。だけど、…少しでも憎む気持ちがなかったか、と聞かれたら、それにはYesと答えるしかない」
苦く笑うと、竜崎は唇に指を押し当てたまま「そうですか」と答えた。
「だから裁きを始めた時、最悪家族を殺すことになるとわかっていても引き返すことは出来なかった。父が寝食を忘れるように捜査をしているその裏を掻いて『警察もバカ』だなんて思ってた。…でもそれって父さんをもバカだって笑っているのと同じなんだよな…。…竜崎に言い当てられて、初めて自覚した。それで、僕は僕のことをもっとよく知っているべきだったと思ったんだ。僕の感情と、そしてどうしたいかの理由を、ちゃんと考える。全てに明確な答えがあるとは思えないけど、そうしなきゃいけなかった。そうした上で、行動しなきゃいけなかった。僕が僕の正義に胸を張って、一点の曇りもなくキラだと告げるためにも…」
「…月くん…」
「…犠牲になった人々に対しての償いはしなきゃいけないと思う。けど、退屈と復讐を兼ねてキラになったけど、犯罪者を裁いたこと事態を僕は後悔してない。それは、後悔するのが負け、とかじゃなくて。…やり方はまずかったかもしれなくても、やっぱり裁きは根源的に根付いた僕の正義なんだ…。賛同してくれとはいわない。でも知って欲しかった…」
「………。」
「竜崎に僕の事を知って欲しい。そして僕も竜崎のことを知りたい。…ダメかな?」
「…いいえ。」
竜崎が伏せ目がちに認めてくれて、月は笑って「…じゃ、キスしていい?」と言う。途端に竜崎の目に嫌そうな色が浮かんだ。
「…貴方の思考回路は一体どうなっているんですか…。要求が説明と全く一致してません。でも、まあ…この間不本意ながら許可はしてしましたから、別にいいですよ。それ以上の事をしなければ」
「…ん、分かった。あ、でも竜崎」
「今度は何ですか?」
「もうちょっと協力的になってくれると嬉しいんだけど…」
竜崎が心の底からというように、長い溜息を吐いた。
「…注文の多い男ですね…」



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