■【Lovers】■ 21

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇side 伊

「出来たー!」
7人分の朝食の用意は結構大変だ。でも、皆で食べたほうが美味しいから、どんなに大変でも作るのは楽しい。特に大人数の朝食は暫くないと言えたから、イタリアは頑張って朝食作りに励んだ。皆、休暇に入るとはいえドイツの家に長居し過ぎになってしまうので帰る組が出て来るのだ。オーストリアなどは昨夜に自国に戻ったようで、今日はイタリアの兄であるロマーノやスペイン、それからフランスなんかも帰ってしまうだろう。それでちょっと豪勢になったので地味に時間がかかった。
(そういえば、イギリスはもう帰っちゃうのかな?)
「イタリア、皆を起こして来てくれ」
「了解であります隊長!」
後片付けの段階でドイツにそう頼まれて、びしりと敬礼を決め、左じゃない右だと注意されたイタリアは、ヴェーっと鳴きながら足取りも軽やかにイギリスの部屋に直行した。
「おはよーイギリス!ご飯だよー!」
ノックも無しに部屋に入る。途端に異変に気がついた。
「…あっ」
イタリアの足音に気付いて咄嗟に鍵を閉めようとしたのだろう。イギリスがベッドから片足を下ろした状態でギクリと固まった。
「…イギリス」
「!」
末臭い精の匂い、毛布を引っ張り上げただけの裸らしいイギリスの目は真っ赤だ。
慌ててイギリスが毛布を被って背を向けたが、もう遅い。
イタリアは思わず眉間に皺を入れてゆっくりと扉を閉めた。
「…どーしたの、それ。誰にされたの」
「…何でもない」
「…何でも無くないよ…」
唸るような詰問に、毛布の塊が震えたような気がして、イタリアは野生動物に近寄るような慎重さでイギリスに近寄った。
「…放っておいてくれ。すぐに体裁を整えるから…」
「放っておけないよ」
「放っておいてくれつってんだろ!」
「ヤだ!」
イタリアの声の強さにイギリスが驚いたようにこちらを向いた。その顔を確認してからイタリアはくしゃりと顔を歪める。
「どーしたのイギリス。放ってなんかいられないよ」
じわっと涙が浮いて来て、今の今まで泣いていたのだろうイギリスがぎょっとした様子で急に慌てだした。
「ちょっと待て!どうしてお前が泣くんだ!」
「だってぇ…うー…」
「だってじゃねぇよ!何でお前が泣くんだよ…。…泣くなよ…な?」
最後は優しく懇願されて余計に涙が出た。ひっく、としゃっくりを上げると「あー、もー」と情けない声が聞こえた。
「…俺こんな格好なんだけど…仕方ねぇなぁ…」
お前が悪いんだからな、と言われたかと思ったらイギリスの腕が伸びて来て、イタリアの頬を撫でた。
「どうした…?」
「だってイギリスが…、すごく痛そう…」
「…別に、痛くねぇよ。よしんば痛かったにしてもどーしてお前が泣くんだよ」
「だってイギリスが痛いの、嫌だよ、俺」
「だからって泣くことねーだろ…。俺の事で泣くなよ…」
目尻から流れるイタリアの涙を拭いながらイギリスが途方に暮れている。
「だって…」
「…お前ってヤツは…誰かが泣いてるたびにそんな風に泣いてたら身がもたねぇぞ。俺に対してすらこうなんだってんなら…お前しょっちゅう泣いてんだろ」
ぐすり、と鼻を鳴らすと、イギリスはそう言って苦笑した。
「…だからヴェネツィアはあんなに水が多いのかもしれねぇな…。まあ…、お前の所は綺麗だからいいけどな…」
切なそうにきゅっと眉根を寄せて苦笑いするイギリスを前に、イタリアは目をぱちくりさせた。
そんな事初めて言われた。
「…そうかな…。俺が泣き虫だからなのかな」
「…どうだろうな。そうかもなってくらいだけどな」
「そっかぁ…でも、イギリスが俺ん家…綺麗って言ってくれるなら泣き虫のままでもいいかな〜」
「………」
「ね、イギリス。俺ん家、綺麗?」
「…あー…ああ…、まぁ、…、…そうだな」
いくらか濁しながらイギリスが頷いて、イタリアはへへっと笑った。
「ありがとーイギリス」
「…お前なぁ…まーいーけど…」
泣いたカラスがもう笑ったという替わり身の早さを披露したイタリアに、イギリスが脱力しながら溜め息をついた。
それをニコニコと眺めながらイタリアはイギリスの頬に手を添えて顔を覗きこんで聞いた。
「ね、イギリス、もう痛くない?ちょっとは気が紛れた?」
「ああ、もう痛く…ん?」
「あのねイギリス、痛かったり辛かったりしないと誰も泣かないんだよ?」
真っ赤だよ、とイタリアはイギリスの目尻を親指の腹で撫ぜてみた。熱い。
指摘するとぱっとイギリスの顔が赤く染まった。顔を背けようとされたが、イタリアが両頬を固定しているので、それが叶えられなかったらしく、諦めたように息をついた。
「…………お前はほんとに変なヤツだよ」
「へへっ、よく言われる。ねぇねぇイギリス、ロッカーの鍵頂戴?」
「ロッカー?」
「駅の。イギリスの着替えが入ったトランクがあるってプロイセンが言ってた」
「…………そうか」
「うん。俺、それ取って来るからその間にイギリスシャワー浴びてきなよ」
「いや…でも…」
「いい口実出来ると思うんだけど…。ちょっとだけど目も冷やしておけるじゃない?」
駄目かな?と問うとイギリスは逡巡したあと済まないな、と困ったように笑ったから、イタリアはうん、と頷いて、力説した。
「お礼は今日から俺ん家来るんでいいから!」
「…………は?」
目を丸くするイギリスにイタリアはにこにこと笑いかける。
「イギリス今俺ん家綺麗だって言ってくれたじゃん!俺今日から休暇だし、イギリスだってそうでしょ?誰かと遊びたいと思ってたんだー!休暇は俺ん家で過ごしてよ!歓迎するよ!」
勢い込んで言うとイギリスが「いや、でも…」ともごもごとしている。
イタリアはイギリスが迷っている内に畳かける事にした。
「何か気になる事でもある?俺すっごく来て欲しいんだけど!」
「…いや…、だって…ロマーノいるだろ…」
「兄ちゃん?イギリス兄ちゃんの事、嫌い?」
「俺は嫌いじゃねーけど…アイツは俺の事嫌いだろ…」
「え?今はそんな事無いと思うけどなー。昨日だってイギリスの隣に寝てたし」
「…でも今朝いなかったし…」
「あっ、確かにいなかったね。なんでだろ?」
はて、と首を傾げると、イギリスが胡乱な目でイタリアを見上げた。
「『なんでだろ』…ってお前…そんなん俺の事が嫌いだからに決まってんじゃねーか」
「えー?そうかなー?」
まるでそれが当たり前、というように告げられてイタリアは首を捻った。
確かに今までの兄ならそうだっただろう。しかし、昨夜の様子を見た限りでは、到底イギリスの言うようには思えないのだ。
もっと別の何かがあるに違いない。
「でもー…なんか…あー、そーか、分かった!」
「何がだよ…」
じとっと見られてイタリアはイギリスを安心させるように華やかに笑いかけていった。
「兄ちゃん純情だから、イギリスのノーブラに耐えられなかったんだよ!」
「へ?」
「前にスペイン兄ちゃんに聞いた事ある。ベルギーにキスしたってーってねだったのに、いざほっぺでいいかって聞かれたら真っ赤になって断ったって。あれは昔の事だったけど兄ちゃんあんまり変わって無いからなぁ…」
「…え…あ…?」
「イギリス、昨日ノーブラだったでしょ?だから兄ちゃん驚いたんだと思うんだよねー。すげー柔らかかったしさ。うん、大丈夫。兄ちゃんはイギリスの事嫌いじゃ無いと思うよ。昨日もそんな事言ってたし、兄ちゃん嫌いなヤツには一歩も近寄らないもん!大丈夫!」
「へ?あ?うん?…そう…なのか?」
「うん。だから前は絶対近寄らなかったでしょ?」
「……………いやまぁ…」
複雑そうであるが納得はしたらしい。
「うん!俺が言うんだから間違い無いよ!」
「だから、ね?」とねだるとイギリスはやっぱり考え込んで、本当にいいのか、と念押しして来たので、イタリアは当たり前だよ!と満面の笑みを浮かべると、イギリスにバスローブを渡して鍵を貰うと勢い込んでシャワールームに押し込み、それから急いでドイツの元へと駆け戻った。
「遅い!というか、誰一人起きて来てこないぞ!」
開口一番叱られて、イタリアは元気よくごめんね!と謝った。それから、駅にイギリスの服を取りに行く事を伝える。
「…なんだと?今じゃなくてはいけないのか?」
「うん。そっちの方がいいと思うんだ。あのブカブカスタイルは朝から刺激が強いしね!」
「…む…」
「それに俺達は着替え持ってきてるから問題無いけど、イギリスは着替え無しじゃ辛いでしょ。服だって男モノで下着にだって困ると思うし、今から行って来るから、ドイツは皆起こして、先にご飯食べててよ」
「…いや…しかし」
「冷めちゃったら勿体無いないし、待たせちゃったらイギリスが気にするじゃん。すぐに戻って来るからさ、気にしないで先に食べててよ。ね?」
「…分かった」
了承を得て、イタリアはすぐにドイツの家を飛び出した。プロイセンのロッカーの鍵を持ってくるのを忘れた事に気がついたが、緊急でも無いし、まあいいやとイタリアは思った。
とりあえずの急務はイギリスの服を用意して、それから泣く暇が無いくらいに構い倒す事だった。


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