|
とりあえず、考えられる全ての事は既に回避済みだ。 なぜなら考えた時点でそれを意識して動いているから。 思って無いつもりでも、無意識の思考程タチの悪いものは無い。 例えば僕は、警察がすぐに動いて来るとは思っていたが、誰も顔すら知らない探偵が腰を動かしたり、そいつが全ての警察を動かせる立場にいるなんて見当もつかなかった。 …そりゃ、考えられる材料や機会がほんの少しでもあれば、考えついただろう。 しかし、まあ結局。 あの時の僕には認識が多少欠けていたワケで、それを否定するつもりも無い。…ただ、同じ失敗を二度としない、それだけだ。 そして夜神月は己の手を見た。 唇の端を上げた。 こういうのも、同じ失敗に入るのかな？竜崎。 あの後、竜崎…Ｌが僕の前に名乗り出た事や、彼女にしてくれとやって来た弥海ミサ。実に予定外の事だらけだったが、僕は僕の一番のピンチをくぐり抜ける為に全ての能力を総動員して考えたのだ。 それは、もう完璧な答えで、どこにも落ち度などなかったのだ。 莫迦げているとは思うが、ミサの自分に関する気持ちも読み切っつもりでいる。…いや、読み切ったのだ。 僕には激しい恋愛などした事もなかったけど、それ自体に軽く拒否感を持っていたからしたいとも思っていたが、そういう事を言うヤツの考える事をトレース出来ないわけでは無い。ただ理解出来ないだけで。 そして、全ての事を考えた上で、しかしうなされた事もある。僕だって人間だ。 その時の言いようも無い不安を今でも覚えている。 だからこそ、綿密に針が通る隙間も無いように固く、完璧に作りあげたのだ。防御の壁を。 「…ははっ…」 口に出して軽く笑い、拳を握る。 僕は勝ったんだ。 世界最大の敵に。 なのに、何だ！ この不安は！ 目覚めても、なお。払拭しきれ無い虚無感は！ 僕は、勝ったのだ！ もう、僕を脅かす事は無い。 あの瞳に見透かされているような屈辱感を味わう事なんて無いのだ。 密葬された竜崎の死を確認出来なかった不安からくるものなのか？ 今から墓でも掘り返して、その亡骸を確かめれば、この不安にもにた感情は消えさるのだろうか…？ 「…違うだろ…」 「？どうした、何か言ったかライト」 テレビを「面白ー…」と眺めていたリュークにいいや、と答えてりんごを放ってやる。 死に神は「うほっ！」と頬を染めてリンゴにかじりついた。 それを見て、パソコンに向かう。 イヤホンを耳に当て、音声を再生する。 『私はＬです』 作りモノの、Ｌの声。これで、警察も動かせる。 竜崎が死んだなどと知られると困る。より綿密に整備をしていないとダメだ。 だから。 『キラ、お前を必ず捕まえる』 ディスクトップのモニターがＬの文字を表示しながら、そう告げた。 早く、殺さなければならなかった。 情が移って失敗するなんて愚か者のする事だ。 …そもそも友人でも恋人でも無かったアイツに情など移る筈が無い。 多少、考えてしまっているのはアイツが死んだからこそ。僕は負けなかった。ただそれだけ。 そう言い聞かせて、モニターから目を逸らす。 多少？これが？ 多少の感傷なのか？ いつかは忘れられるのか。 ならば、何故、この手はこうも震えるのか。 縋るように偽物の声を繰り返したりするのか。 どうして、この胸は今にも潰れそうに痛いのか…？ 答えては一つしか無い。 友人でも恋人でも無い彼を愛してしまったからだ。 僕もいっぱしの人間だったというワケだ。 『夜神くん』 圧倒的に黒目に支配された瞳が脳裏に蘇る。 『月くん』 嘘ばかりの関係で、友達ても恋人でも無かった彼。 僕は、神になるんだ。 こんな事に関わりあってる場合じゃ無い。 でなければ、僕が彼を殺した意味など無いのに。 大概、考えられる事は回避している。 竜崎は、更にその上を行ったのだ。 溢れだす涙など流す権利は無い。 二度と声も聞けず、顔すら合わせられない関係がこんなにも辛いと思わなかったのだ。 「ライトー！ただいま～♪…え？！どうしたのっ！？」 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |