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「ぅ…」 暗闇の中、月は呻いた。 ふと気づくと暗闇の中。上下も分からないような黒の中、月は軽く辺りを見回した。 「ここは、どこだ？」 目が慣れても無限の闇だけの空間に、月は小さく身震いした。 (先刻までどこにいたー…？どこにいるんだ、僕は。…そうだ、竜崎。手錠で繋がれた竜崎は？) 思い、手首を見る。 じゃらん、と重い手錠の先は忽然と闇の先に吸い込まれていて、月は先程よりも強い悪寒を感じた。 「りゅ、竜崎っ…」 慌てて手錠から伸びる鎖を手繰り寄せる。 しかしその手に返って来たのは頼りない、感触。 …この鎖はどこにも繋がってはいない… 漠然と、確信に満ちた直感がよぎった。 月はぴたりとそれを辿るのを止めた。 それの先に繋がっているのは、怖いものだ。 怖いものに繋がっている。 手繰り寄せるのは竜崎では無い。人ですら無い何か。 思い、背筋から這い登る悪寒を振り払うように頭を振った。 (落ちつけ、落ちつくんだ。…状況を把握しろ。) 自分自身に命令を下し、月は目を瞑った。 目を瞑っている、と認識さえしてしまえば、思わず不安を煽る闇にも余裕が出来る。 「…」 しん…とした闇の中、月はどうにか平静を取り戻し、己が置かれている状況を分析し始めた。 (竜崎の…捜査の一環か…悪戯か…。悪戯はまああり得無いとして。捜査の一環なら、充分過ぎる程分かりやすいな。…薬を使っているとか。竜崎ならおかしく無い。…しかし、父さん達が一緒にいて竜崎は果たしてそれをするだろうか。 …思い出せ。最後に何をした？…確か仮眠の為にベッドに入った筈だ。…そうすると…順当に考えると、これは夢なワケだがー…あまりにも普通の話過ぎて逆にあり得ない気がするな。 …それに夢を夢だと判断出来るものだろうか。分かる夢もある。…けど今のこれは似ても似つかないー… ならば竜崎の策略だと言う話に落ち着くのだが、とても現実的であり得そうな話なのに、夢を夢だと認識する事以上にあり得無い、と月は思った。 では、何か。 なんとなく、人外の力が働いているような気がした。本当にバカらしいが。 …そして酷く恐ろしい程の期待感と、高揚と、親しみさえ感じるこの闇が、だから一層恐怖色に見えた。 (僕は知らない、こんな闇など！) 心の内で強く叫び、一刻も早くここから出してくれ、と願う。 『何を恐れる事がある？』 強く、深く、願った矢先に声が聞こえた。 それは声と形容するには何かが欠けているようで、月は戸惑う。 自分が、小さな箱に閉じ込められた印象を持った。それに反して無限に広がる闇に現実では無いと思わさせる。 『やはり僕の計算通りだ。お前は本当によくやってるよ。』 少し勘に障る愉しげな声が、月の神経を逆だてる。 『そうして、早くアイツの信用を手に入れろ。そうすれば、僕は何の障害も無く理想の世界を手に入れられる。』 「…お前は…」 『しかし、計画の中とはいえ、少し入れ込み過ぎだな。…僕ならば…と思ったが…、いやでも、そうでも簡単だ。アレさえ手に入れれば情などすぐに棄てられる。多少の感慨はあるだろうが、簡単に殺せるだろう』 殺せるだろう 全身を包むように発っせられる声が、月の体を瞬間冷凍されたかのように硬直した。 全回路が閉鎖されたような感覚の中、心臓だけが深く激しく鳴り響く。 ドクンッ ドクンッ 強く静かに鳴り響く。 例えばこれが、竜崎の罠ならば。 そうだとヒトカケラでもいい。思えたのなら。 僕の声で話すお前に、『違う』と言い放てたのに。 「うあああああっ！！！」 喉が支配下から離れて迸った。 僕が殺すのだと言う竜崎。 いつものように、僕はキラじゃ無いよ、と笑えれば良かったのに。 いつまで疑ってるのだと怒れれば良かったのに。 これほど迄に思い、想い、気がつけば馳せる心を信じる事が出来ないのは、勝手に流れる涙のせいか。 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |