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ぴちゃり 頬に生暖かい何かの感触を察して、メロは小さく身じろぎを起こした。 「…んー…」 それがくすぐったくて、メロは手の平でそれを避けようとするが、逆にそれはメロの首筋にくっついて来た。 ふわふわの柔らかい髪が頬をくすぐって、メロは小さな笑い声をあげた。 「やめろって…ぇる…また後でー…Σあぃたぁっ！！」 途端にがじりと噛まれて、メロは夢現つの世界から一気に現実へと引き戻された。 「ぇるっ！お前ってヤツはー…」 がばりと上半身を起こし、ころん、と転がったＬに対して何事かを言おうとしたメロはそこで言葉に詰まった。 そこにいたのはＬではない。人科に属するワイミーハウスの一員。メロの最大のライバル、ニアだった。 「…お前何してんの…」 全神経が脳に集まっているからか、ニアの運動神経は極端に悪い。 メロが飛び起きた反動でころりと転がったニアは裏返った小さな亀のような動きで体を起こした。むすっとしている。 「……」 だからか、顔を背けたままむつりと黙り込んでしまった。 それで、メロの方が更に腹を立てる。 「…おい！僕はお前に起こされたんだぞ！何とか言ったらどうなんだっ！！」 そもそもー…と先を続けようとすると、ニアがぽつりと呟いたので、仕方なく文句を中断させる。 「…何？」 先を促してやると、再びニアはぽつりと呟く。 「…メロは私の事が嫌いですか」 「は？」 「私の事が嫌いですか。…これっぽっちも好きじゃありませんか」 「はぁ？お前何言ってんの？嫌いに決まってんだろ！お前の事なんか。それとも何か？お前、僕の事好きなのか？ははっ…そんな…」 「好きです」 「…ことあるわけー…？」 「好きです」 「………？」 「…本当にこの手の事はＬに似て鈍いですね。私はいつもメロの事を見ていたのに」 「はっ？！お前いつも僕の事睨んでー…それに！目があったら興味なさげに逸らす癖に！！」 「…、それは、私に興味があるという事ですよね？期待してもいいという事ですね」 「Σ何わけのわかんない事言ってんだ！！どうしてそういう話になるのさっ！僕はっ」 意気込んで、矢継ぎ早に繰り出すメロに対して、ニアは小さく頭を傾げやんわりと遮った。 「…だって、そうでしょう？私の事が気にくわないだけなら、『目があっても逸らす』事実を告げるだけで良い。そこに入ってる主観は、他ならぬ本人が思っている事。興味なさげに見えたのが、メロの気に障った。…逆をいえば、メロは私に興味を持って欲しかったー…」 薄く、ニアが微笑む。 メロは酸素を欲しがっている金魚のように口をパクパクと開閉させた。 「私は睨んでいたワケではありません。確かにメロやメロの周囲の人物に対する嫉妬のような感情はあったかもしれません…が、別にメロの事を嫌って睨んでいたワケではないです。目を逸らした時もどうして良いか分からなかったから。気恥ずかしかったからです…。でも、このままではと思い、今日は」 「……」 もし、ニアが言ってる事が本当の事だとして…いきなり人が寝ている上に跨るなよ…と、メロは半ば呆れ気味に心の中で呟く。 さて、どうしたものか…。 頭の中は最高にパニクっていて、先ほどからとりとめも無い感情があちらこちらから生まれて消える。 しかし、ある一点はどうしたって変わらない。 どうすればいい？ そんなメロの感情を読みとったのか、ニアは全く見せた事の無い笑みを浮かべて、音の無い動作でメロに近付いた。 吐息が肌に感じれるくらいに接近して、メロは身を僅かに引く。 「メロはつい先だって迄私の事が嫌いでしたし。それは私も考慮していますから、提案です。 私は今からメロにキスをします。 メロの選択肢はみっつ。 一つはこのまま私を受け入れてしまう事。 二つめは、私を突き飛ばして逃げる事。…メロなら出来るでしょう？ 私は二度と追いません。この院を出てもいい。 みっつめは。 とりあえず、試してみる事ー…」 言って、ニアの顔が近付いて来る。 メロは寸分も身動きが取れないまま、ニアを睨みつけた。 少なくとも短い付き合いでは無い。ニアは言った事は実行する。それくらいの事はよくわかっている。 …だから突き飛ばす覚悟なんて、出来ない。 本当の本当には嫌ってなどいないから。 確かに、己の事など眼中に無いニアなんか嫌いだ。 だけどー…。今のニアは嫌いじゃ無い。腹が立つだけで。 しかし、だからと言ってあっさり受け入れられる程器用でも無い。 …結局はニアの思惑通りの３番を選ぶしかなくて。 「っ！」 唇が触れたかと思ったら、ニアの舌がにゅっと伸びて来て、体がこわばる。 思ったよりも長い口付けと、普段はとろい癖に縦横無尽に口内を蹂躙するニアの舌に上手く呼吸が出来なくて喘ぐ。 「んっ…んんっ…に…ぁ…！」 溜まりゆく唾液を飲み込む事も出来ずに、実はこれはニアの作戦で、このまま窒息死させられるんじゃ無いかと思った時、漸くニアの唇が離れた。 「…っは…お前…長い、よ…」 くたり、と壁に体を預けながら、息をつく。 自分を好きだと言ってる相手(しかもＬ候補)の提案なんて聞くのはナンセンスー… メロが思いながら呼吸を整えていると、当のニアは首を小さく傾げながら、無神経極まりない事を吐き出した。 「…思ったよりも慣れてませんね…」 「 」 最早言葉という言葉が出なかった。 頭が真っ白になるとはこの事だろうと、後で思う。 「Ｌとキスしたんですよね？Ｌも運動神経は優れてますし…変ですね」 心底不思議そうな態度がメロの逆鱗に触れた。 「っの！バカニアッーーーッ！！」 どしーん！とニアを突き飛ばすと、ニアは抵抗も出来ずゴロゴロとベッドの上を転がり、床に落ちた。 「な、な、何で僕がＬっと！」 転がって落ちたニアはその大勢のまま、目を丸くしてメロを見つめた。 「…だって先程、Ｌを呼んでたじゃ無いですか…。それにメロ、Ｌの事を特別に想ってるますし…」 「…っば！お前、あれはっ！！猫の事だっ！Ｌによく似た黒猫を知ってんだよっ！！…それにＬは…Ｌはー…………。…僕の事なんか範囲外だと思うしー……」 「当たらずとも遠からず…っていう所ですか」 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |