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私達は家族です。 【家族】 秋口になると、イギリス・ウィンチェスターにあるワイミーズ・ハウスも朝と夜は寒い。 なんたって深い緑に覆われた森や海からやってくる濃霧にあたりはすっかり包まれるからだ。 「ふぁぁ～…」 メロは大きな欠伸をして背をぐっと伸ばす。何だか今日は早く目が覚めてしまった。隣のベッドに横たわるニアの眠りは深い。 メロはもそりと毛布を退けてベッドを降りた。 なんだか二度寝をする気分にはなれない。昨日夜更かしをしたというのに、Ｌが戻って来た部屋で。 「………」 だからだろう、それに付き合ったニアの眠りはいつもよりも深い気がした。 そんなニアを一瞥して、ぼんやりと辺りを覆う真っ白な霧の粒子を窓の内から眺める。まだ外は陽が登ったばかりだ。 「…？」 早く起きてしまったから、勉強でもするかな、とメロが窓から視線を逸らした瞬間、ふと視界の端に見慣れない物を見かけて視線を戻した。 「………？」 よくよく見るとそれは人影のようで、不審に思い、それから閃いた。 「…何やってんだよ」 小声で悪態をつき、上着を掴んで音を立てないように、しかし急いで部屋を飛び出す。 靴を履き、通用門から敷地外に飛び出した。辺りは深く濃い霧に覆われて視界が利き難い。 あまり走ったりすると、突如飛び出したりした人などにぶつかったりして大変なので、注意深く周囲を気にかけながら目的の人影をさがした。 「…確か、こっちー…」 この辺りの事ならメロはよく知っている。彼ならどうするか、どう思うのか考えて、道を選ぶ。 「っあ！Ｌっ！」 「…メロ？」 見慣れた人影を見つけて、霧に溶けてしまわないように呼び止める。 途端に肺を犯す冷たい霧を深く吸い込んで咳こんだ。 「…大丈夫ですか？」 やはり見間違えでは無かったＬが引き返してメロの元にやって来て、大丈夫、と返す。 「…どこ行くの」 すぐ目の前に立つＬの腕を掴む。Ｌは少し首を傾げた。 「…別に、どこも…。特にあてはありませんが」 「…」 私を追って来たんですね？と聞くＬに、メロは静かに頷いた。 「…メロは早起きですね、昨日はあんなに夜更かししたのに。たくさん食べて、たくさん寝ないと大きくなれませんよ？」 Ｌがメロの頭を撫でて、微かに口角を上げた。 対してメロは唇を真一文字に結んだままＬを見上げる。 「…どうかしましたか？」 その何の濁りも無い、ただただ透明な色にメロは歯噛みした。 「…なんで？」 「え？」 「…Ｌは、僕のコト、好き？」 「…え、ええ。それは勿論」 少し戸惑いの色を見せるＬの表情をメロは切なく見上げた。 「だったら、どこにも行くなよ。…せっかく帰って来て、ゆっくり休めばいいのに、こんな朝っぱらから…」 「…いえ…、あの気分転換に…」 やはり戸惑いの色を深くするＬにメロは僅かに笑った。 「…何も見えない霧の中を？」 「…はぁ…」 「アンタ、消えたがってるみたいだ。」 「…」 Ｌの真っ黒な瞳が少しばかり見開かれた。 「この霧の中に消えてしまいそうに見えるんだ。」 「……」 「しかもこんな薄着で…。…Ｌ、しゃがんで」 「…」 「しゃがんでって言ったんだよ、聞こえ無かった？」 棒のように立ったままのＬにもう一度命令する。 ゆっくりと屈むＬの首を抱き寄せる。 「…本当、不便だよ、この体は。」 言って力いっぱいＬを抱き締める。 「…僕のコト、嫌いじゃ無いならどこにも行くな。こんな風に紛れようとするなよ、Ｌ。」 Ｌはしっかりしてるようで、その実不安定だ。 きちんと繋ぎ留めておかないと、すぐに消えてしまいそうな朝靄のように。 「僕たちは、家族だろう？…いつかＬが言った言葉だ」 「僕がいる、だからどこにも行くなよ…」 小さな祈りの言葉。 「分かりました…。…だから、あの…メロ…泣かないで下さい…」 「…なんか今のＬは子供の涙にはかなわないって声してる…」 「…はぁ…あの…」 暖かい涙を首筋に受け、困ったようなＬの声に、メロはゆっくり体を離す。 「まぁいいけど…。どーせ不便なら不便な中でしっかり活用しねーとな？ガキの涙一つでＬを縛れるなら安いモンだろ」 「…メロ…」 Ｌが半眼でちらりとメロを睨むのに、メロは動じる事も無くにやりと笑って彼を見返す。 「せいぜいガキの内は利用させてもらうさ。…だから、Ｌ」 ぴたりと冷たいＬの頬に手をあてる。 「家族になろう。 18になったら迎えに行くから、家族になろう。」 「…」 「世界のＬの後がまを継ぐよ、僕は。そうしたら法律なんて糞くらえだろ？…結婚して、家族になろう。」 メロが歌うように囁く。 「今も家族だけど、二人きりの家族に。迎えに行くよ。迎えに行く。」 Ｌが目を伏せて、メロがその瞼に口付ける。 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |