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カラカラ カラカラ 音が鳴る。 【カラカラ】 今日の捜査本部はＬと僕をのぞいて誰もいない。モニター越しにワタリがいるけれど、実質的にいないも同じ。 私生活というものが一切無いＬの事を、僕は悲しく思っていて、だからせめて僕は僕があげられるもの「竜崎…好きだよ」という言葉と体温のみを分け与えるワケだが、この時のＬはうるさがるワケでも無く、肩ごしに僕の顔を凝視するとこう言った。 「…駆け落ち…しましょうか」 僕は突然言われた言葉に目を見張ってＬを見返した。彼の大きな瞳が静かにそこにあって、しばらくそのまま見つめると口の端を上げたのだ。 Yes！ 「だけどいいのかい？手錠離してしまって」 軽くなった手首を振りながら僕が問うと、Ｌは「流石にこのままでは警察官に補導されてしまいます」と眉間に皺を寄せた。 「…Ｌ失格ですね」 「そんな事は無いよ。僕はキラじゃ無いんだし、竜崎はよくやってる」 にこっと笑みを向ける僕に、Ｌは「そうですか」と答えてから建物の外に出た。 途端にＬの手が僕の手をぎゅっ！っと握って、驚きと共に僕は彼を見る。 …もしかして、外が怖いのだろうか。 子供のように、その手を握っているのかと思った僕がバカだったのだと、気づいたのは彼の顔を見てから数秒後。 「これならば、鎖と違って補導される事は無いでしょう？…まあ注目はされるかもしれませんが」 にやりと笑うＬに頭痛を覚えて、僕はひたいに手を置いた。 「まさか嫌だとか言わないでしょう？…駆け落ちですから」 ヤラレタ。 頭の中を支配する文字をどうにかこうにか撤去させて、僕は少しドキドキした事を後悔した。 「流石・Ｌだ」 「有難う御座います」 そう返したＬの表情は憎たらしいほど生き生きしていて、更に僕がふてくされる。 「では、ゆきましょう」 Ｌの手が僕を連れてゆく。僕はその手についてゆく。 「どこに、行きたいんだ？」 しばらく彼はぺたぺた、僕はタンタンと歩い後、聞くと、Ｌの頭が少し、傾いだ。 目的を決めていなかったらしい。 そうだ、よく考えたら、ここはＬの知らない街。彼が迷いも無く歩いて行くので、彼がすべてを知った気になっていた。 どこへ、行くの？ ここは既にもう僕の知らない街。 駆け落ちってどこにするものなんだっけ？ 「知らないところへ」 Ｌが答えた。 「知らない所へゆきたいです。最果ての地へ」 僕の心臓は、きゅっと軋んで、小さくなる。振ったらカラカラと音が鳴りそうだと思った。 「…公園です」 『切ない』気持ちが胸に溢れて仕方がなかった。僕は恵まれた子供だ。だからこそ僕のどこかはからっぽで、それを僕は認めたく無いのだけど、彼のからっぽが、僕のからっぽを埋めてくれる感じがした。 とっても醜い感情だ。 彼の淋しいのや悲しいのが僕を充溢させるなんて。とても醜い感情だ。 「本当だ、誰も人がいないんだな」 僕はそれにそっと目を瞑る。聡い彼の事だから僕の醜さになんかとっくの昔に気付いているのかもしれないけど。 「…私、ジャングルジムが好きなんです」 四角い箱を重ねているように見える鉄筋のそれに、Ｌが手をかける。 「登ってみる？」 「はい、一緒に登りましょう」 「僕も？」 「嫌ですか？」 「嫌じゃ無いけど」 「では、登りましょう」 大人になれば、その高さの低い事に気づく。 そして登らなくなるのだが、登って見て気づくその高さ。 「思ったよりも高いんだな」 「空はでも遠いです」 言ってＬが手を翳す。 「でも変わらず青い」 カラカラと音が鳴る。 カラカラと音が鳴る。 カラカラ・カラカラ・ 君といるのに音が鳴る。 新たな隙間が開いて行った。 「…竜崎。」 彼の腕を引いて、注意を引いた。 「…君を好きだよ」 少し開く瞳。 「…駆け落ち、でしたね」 「そうだ。この僕を忘れるなんてなんてヤツなんだ」 それにＬがくすりと笑った。 「それは申し訳ありませんでした」 Ｌの視線が空から僕へと戻り、僕のからからが安らいだ瞬間、 『Ｌ』を呼び出す電子音。 「帰ろうか」 僕の中にゆっくり隙間が出来る。 Ｌとして生きる彼の余白の無い人生を、僕はとても淋しいと感じた。可哀想だと感じた。 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |