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ほわほわと、蒸気が上がって室内に紛れる。 感じのいい、ガラスのテーブルはアールデコ仕様。上に小さな音を立てて、高級そうなティーカップが置かれた。 少しワクワクしているように見える少年の前にはイチゴのショートケーキ。それに釘付けだった少年Ｌの視線が少し年老いた紳士の淹れる琥珀の液体に移された。 アフタヌーンティーの時間である。 Ｌは日本特有の生クリームがたっぷりデコレートしてあるショートケーキを好む性質にあるが、イギリス古来の三段トレイ(サンドイッチにスコーンに焼き菓子・果物)もちゃんとワタリは用意している。 「Ｌ、サンドイッチもちゃんと食べて下さいね？」 言って、紅茶をＬに渡すと、Ｌは少し眉を寄せてしぶしぶと頷いた。 「…分かってますよ」 「では、どうぞ」 にっこりと笑って、ワタリはＬの横に立つ。 Ｌはいつものように、砂糖たっぷりの紅茶を啜ってから楽しみの筈のショートケーキに手をつける前にワタリを振り返った。 「…？…どうか致しましたか？」 不備は無い筈だ。 イギリスでは最近の若者の紅茶離れが大きいと聞いているが、Ｌにはそれも無い。 砂糖は若干…入り過ぎてはいるが、よくくんくんと鼻を動かして、匂いを嗅いでいたりもする。 「…Ｌ？」 聞くと、ワタリの小さな主は少し言いにくそうにしてから、口を開いた。 「前にも聞いた事はありますが。ワタリは一緒に食べないのですか」 「…主人と一緒には食事は採らないのが普通ですから」 「………」 黙ってしまったＬに、ワタリは苦笑を禁じ得ない。 「…「ワタリは…」」 Ｌを宥めようとするワタリの思案の空白に、Ｌの言葉がかぶさった。 「ワタリは今、幸せですか？ ワタリは、私を主人として幸せでしょうか」 真摯な声音に、ワタリは優しく微笑んだ。 「ええ、幸せですとも」 Ｌは更に先を募る。 「では、私がどんな所に行ったとしても不幸せになりませんか？」 「勿論ですよ、Ｌ」 「では」 大きな真っ黒の瞳がワタリを捉える。 「では、一つ命令をします。ワタリの幸せを少し奪って申し訳ないのですが…」 「何でしょうか？」 「…私の前にもう一つ椅子を持って来る事。 そこに座って、一緒に食事をとる事。 …やってくれますか？」 小さく揺れる瞳は、ワタリだけを見つめている。 ワタリの胸は小さく痛く、そしてじんわりと暖かくなった。 「…喜んで、Ｌ。」 「…私は幸せ者です」 ワタリは紅茶を飲む。 Ｌはショートケーキを啄んだ。 「貴方に死ぬまで仕えたいと思います」 「…縁起の悪い事を言わないで下さい」 ワタリはワタリの小さな主を少し泣かせてしまったけれど、 とても 幸せだった。 おわり …………………… …懺悔… なんか私が超幸せでした。これ書けて。 Ｌの話(ＭＬも白月Ｌも)はどちらかというとまったり系の話ばかりですが、書けて良かった。 ワタリとの話は前々から書いてみたいと思っていたのですが、なかなかきっかけが掴めずにいたのですが、ふと思いついて、他の書きかけをほったらかしにして仕上げました☆(笑) いつもより少し短いですが、お付き合い下さって有難う御座いました。 水野やおき 2005.09.05 ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |