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もっと、笑顔が見れればいいのに。 【スマイル】 目の前にはほかほかと蒸気を上げる紅茶が置いてある。美味しそうなミルフィーユと一緒に。 しかし、月の視線はその２つをちらりとも見やしない。 彼の視線は隣りに座る竜崎ことＬに釘付けだ。 「………」 彼は一心にミルフィーユを平らげている。他の事など目に入らないように。 しかしー… 「…………、何ですか、夜神くん。言いたい事があるならさっさと言って下さいよ」 ぴたりと動きの止まった彼は、視線だけで此方を窺う。 「…んー。竜崎、僕のケーキも上げるよ」 「………何の魂胆ですか」 「僕がケーキをあげると何か裏があるように見えるのか…？」 ほんの少しだけ悲しそうな声を混ぜてみる。…勿論竜崎には通じないだろうけれど。 「…こんなにジロジロ凝視された後では、そう言いたくもなります。」 「…そんなに見てた？」 「見てました」 案の定、竜崎には通じず、きっぱりとした答えが返ってくるだけ。 「…裏は無いから、食べていいよ。」 月はにこりと笑ってＬに提案する。そこで初めてＬの顔が月の方を向いた。 「……」 「…、わかったよ。話せばいいんだろ」 「分かればいいです」 無言の威圧に月が折れる。別に言ったって、言わなくたって構いやしないのだ。 「…あまり嬉しそうな顔しないな、と思って」 「…」 「『何を下らない事を』って顔してるね」 「よく分かってるじゃ無いですか。何をいきなり、そんな事を」 Ｌのフォークを持つ指先がちろちろと揺れている。月はそれを見るとは無しに眺めながら、少しだけ首を傾けた。 「…いや、見てみたいなぁって」 「…………」 ぴたり。 彼の指先が止まる。 同じく止まったままのＬの顔を窺えば、眉間に皺を寄せたままフリーズしている。器用な事だ。 「…………は？」 「いや、だからさ。笑った顔を見てみたいなあ…って」 「…脳が沸きましたか？」 「失礼だな、竜崎は。僕は至極真面目に言ってるのに」 「…尚更いただけません…」 半眼のＬはジロリと掬うように月を見る。 「別におかしな事じゃ無いだろ？好きな人の笑顔がみたいってごくごく自然な事じゃないか」 「…………………対象が私という時点で全く自然な流れではありません、が。」 「…が？」 「本当にそんな事考えてたのですか？」 「他に何かある？」 「いえ。少し前の夜神くんでは到底想像もつかないので。もしかしたら、私を驚かせて心臓を止めようという策略かと」 相当嫌だったのか、動揺しているのか、彼の言葉にそう切れは無い。月は呆れ気味に苦笑した。 「…どんな策略だよ、それは」 Ｌの笑顔なんてとんと見た事が無い。大好きな甘い物を食べている時でさえ、そう嬉しそうに見えないのだから、彼の屈託無い笑顔というのが尚更気になるものなのだ。 Ｌに感情が無いワケでは無いと思う。どちらかと云うと彼は顔に喜怒哀楽が出やすいタイプだ。 それなのに、表情に乏しいのはキラ事件のせいだろう。気を張り詰めているのだ。 だからー…、だから。 自分がキラと疑われているのだけれど。原因の一つではあるのだろうけれど。笑わせてあげたいな、と思ったのだ。 …余計なお世話かな？とも思うのだけれど。 「竜崎はどんな事をされたら、嬉しい？」 「……もの好きですね」 「ケーキは嬉しく無い？」 「…それは嬉しいですけど」 「他は？」 「けれど、何かしていただいたとしても、笑ってあげたり出来ませんよ」 「まあ。それは仕方ないかな」 「…月くんはよく笑顔を見せますよね」 「マクド○ルドのスマイル０円並みにね。笑顔っていうのは、人の心を安らげる効果があるし。…まあ嫌々笑ってるワケじゃ無いけど」 「…では、笑って下さい。」 「…え？」 「誰かの笑顔というのは、見ていて気持ちがいいのでしょう？」 Ｌがちょっとだけ口角を上げる。 月はポリポリと頬を掻いた。 「…急に言われても…。こ、こんな感じかな？」 「ちょっと照れが入ってますが、まあいいでしょう。」 言って、Ｌは再びケーキをつつき始める。 「…そうですね。私が一番嬉しい事は…」 「…ぅん？」 「やはり、キラが捕まる事でしょう。」 「…まぁ、そうだね」 「それとー…今は」 言いかけてＬは、「あ、これ貰ってもいいんですよね？」と月のミルフィーユを指差す。月は微妙な気分を抱えたまま、頷いた。 キラが捕まる。それは月にとっても結構な事だが。Ｌが言っているのはー… 「……………で、『今は？』」 「…ああ、そうでした。今は。…ー私の推理が外れても構いません。月くんがキラで無い事、月くんがキラだとしてもー…いえ、これは言うべきでは無いですね。けれど、そう。このままでいれたら、嬉しいです。…勿論、第３のキラを捕まえてね」 彼が緩やかに笑う。 僕は、目を奪われる。 そして僕は間違っていたのだと思う。 いや、けして間違いだけでも無いのだけど。 ただ、僕は。 僕が、僕の為に。 彼の、彼の笑顔が見たかったのだ。 それで。 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |