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「…なあ、これくらいにして今日は寝よう」 室内は少しだけ薄暗い。 本部の皆はそれぞれもう部屋に戻っていて、大きなモニターがあるこの部屋には月とＬしかいなかった。 「…そぅ、ですね。これ以上続けても効率が落ちるだけ…」 そう言いながらＬは目の前の資料からちっとも目を逸らさない。 月は溜め息をついた。 ここの照明は体内時計に合わせてゆっくり消灯するように設定されいる。 確かにこうでもしないと二人とも没頭して朝になってしまいそうだし、ずっと明るいままだと疲れてしまうし。 この薄暗さから言ってもう四時になるだろうか。 月がチラリとデジタル時計を見やると現在午前４時２０分。 今から寝れば２時間は眠れるか。 「…ほら、竜崎」 明日の朝は７時から皆で朝食兼会議がある事だし、せめてのタイムリミットが今の時間だろう。これ以上竜崎に付き合ってはいられない。 「…はぃ…」 小さく返事をしながら、その実全く気付いていないようで、月は文句を言われるだろうと覚悟しながら手を伸ばした。 「っあ！」 パソコンを強制終了させてやる。 Ｌはいささか大きな声を上げた。そしてジロリと此方を睨む。 「竜崎がちゃんと聞かないからさ」 月もＬに負けず、腕を組み半眼で彼を睨んだ。 「………」 「………」 「…………分かりました。」 根負けしたのか、単純に分が悪いと思ったのか、Ｌが細く息を吐き出した。 「でも、何もいきなり電源切る必要は無いでしょう？…クラッシュしたらどうするんです」 「…それは、悪かったよ。でもデータはとってあるし…、次は気をつけるよ」 「…まあ、大丈夫でしょうし…。私も悪かったですから、仕方ないとしましょう。」 Ｌが言って、よいしょ、と椅子から降りた。 「しかし、遠慮無いやり方ですね。…それも私にばっかり」 「…ぷ」 「なんですか」 「いや…」 最後があまりにも拗ねて聞こえたので思わず吹き出してしまった。それから、首を傾げる。 それを見て、Ｌは無自覚か、というような視線を送った。 「いつもは品行方正で折り目正しいですよ。月くんは誰にでも」 「…そ、そうかな」 「そうですよ」 言われてみなくとも、他の人達に強く自分の意見を言ったりする事はなかった。 強制的に何かをする事も。ましてや人を殴ったのも、初めてで。 だけれども、それをＬにだけ見せている、という意識はしていなかった。 月は手首から落ちる鎖を眺めた。 繋がっている。 繋がる事が出来ている。 こんな鬱陶しくて、邪魔なだけの鎖に安心する自分がいる。 ガチャ、とＬが寝室のドアを開けた。 その後ろ姿を見る。 「…」 彼はそのままベッドに横たわった。普段着も寝間着もＬには無いのは初日に知った。 そして月はくるりと丸まったＬのベッドの横で着替え始める。 「…僕には友達が沢山いたんだ」 「…？」 Ｌに背同士を向ける形で月は喋り始めた。 パサッと上着を脱いで続けた。 「沢山いたよ。幼稚園の時も、小学校の時も。中学高校、今も変わらず」 「…」 「皆平等に友達だった。…でも、これは知り合いに近いよね。今、そう思うんだ。 誰かに心を許して話した事なんてない。ちゃんと理解してくれないと悲しいし。 だから、人を殴ってでも知らせたいと思った事も無い。…思えば空っぽの人生だったんだな…」 着替え終わって、Ｌの丸まった背中を見た。 「…ねぇ、一緒に寝ていいかな」 Ｌは何も言わない。 人生これからですよ、くらい言ったって構わないと思うのだが、それを言わないのがＬで。何故か月には好ましく思えた。 「嫌ですよ。狭いじゃ無いですか」 「つれないな。充分広いじゃ無いか。どうやってもおっこち無いさ。それとも竜崎はそんなに寝相が悪いのか？」 「…そういう話じゃありません」 「じゃあ、失礼」 「アナタ人の話聞いてるんですか」 「うん」 言いながら勝手にＬのベッドに潜り込んだ。 ゴロリと此方を向いたＬに笑いかけて、背中に手を廻す。 「…やりたい放題ですね」 「うん。」 「『うん』じゃあ無いですよ」 「うん。」 言ってＬを抱き寄せてみた。Ｌは大仰に溜め息をつく。 「竜崎」 「…今度は何ですか」 「ごつごつする」 「…当たり前でしょう。男なんですから」 「…そうだけど、そうじゃなくてー…、つまり、竜崎はちゃんとご飯を食べた方がいいって事だよ。糖分ばかり摂ってないで」 「私は砂糖の星から来たので、他のものはいりません」 Ｌが面倒臭そうに言って、その後小さく笑った。 「…竜崎…」 困ったよう呟いて、その後やはり月も笑った。 「…竜崎、明日は一緒に普通のご飯を食べよう。パンは菓子パンで譲歩するし、紅茶も淹れてやるし」 「紅茶はミルクティーなんですよ。まず、私が起きる前に淹れて下さい。迷惑料です」 「はは。まさかベッドで飲む気か？」 「おや、イギリスではそういう風習があるんですよ。アーリー・モーニングティーと呼びます。ベッド・ティーとも。濃いミルクティーを飲むんです」 「ふーん。じゃあ、まあそうしようか」 言って、Ｌの髪に顔を埋める。目を閉じた。 僕は竜崎の為にミルクティーを淹れる夢を見た。 そして、何年経った今日も僕は一人で暖かいミルクティーを飲む。 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |