|
（悪いヤツやないんやけどなぁ） スペインはこの可哀想な悪友をしげしげと眺めてから呟いた。 「ほんまに好きやって気付く前にフられるなんて可哀想なやっちゃなぁ…」 「は？」 「イギリスにめっちゃ惚れとるやん、自分」 「…は？」 「愛の国やのに、残念な結末やんなぁ。なんでちゃんと捕まえてへんのに絶対帰ってくると思ったんか不思議やわ」 「…もしもし？」 「とっかえひっかえしとるの知とったけど、そのたんび受け入れてくれてたんやろ？イギリスもお前の事かなり好きやったんやないかと思うんやけど、残念やなぁ。何しろプライド高いあの性格やろ？いくら人肌寂しい時があったゆーても、好きでもないとほぼ毎回受け入れるとかあり得へんわ。女にフられた後とか言ってみたら残りもんやん。毎回とかきびしいわー」 「……す、スペイン？」 「遂に愛想尽かされたっちゅーことやな。ま、しゃーないわ。しばらく忘れられへんかもしれんけど、頑張りや！」 スペインがからっと笑ってフランスの肩を叩くのと同時に「ほにゃららのよしみで来てやったぜー！」という不憫の声がしたので、スペインはさっさと席を立つ。 「ほんな、プーちゃん。独り身同士よろしく頼むわー」 「Σ何が？！！」 「フランスなぐさめたってー」 固まっているフランスと不憫な不憫を尻目にスペインはそう言って酒場を後にしたのだった。 --------------------------- イギリスはフランスが好きだ。 フランスが声をかけてくるとウザイと思うし、 からかわれたり、混ぜっかえされるとムカつくし、 さりとて微笑まれると正直髭面の癖にキモいと思う。 触れる手の温度は生ぬるいし、 ちょっとした動作が変にキマッていて実に胡散臭い。 だから、フランスが好きだ。 「うん、まぁ、だからっつーのはどう考えても違うよな…」 本日、いつもの通り「遊びましょ」とやって来たフランスを家から蹴り出して、ちゃんとチェーンまで締めて落ち着いてからイギリスはアフタヌーンティーを嗜みつつ呟いた。 ゆらゆらとくゆる上等の茶葉の香りを楽しみほっこり微笑む。これだけは他人に負けない、フランスにだって負けないと自負している。 イギリスは香りと喉を通る温かさを堪能すると先程追い出したフランスの事を思う。 フランスが『遊びましょ』というセリフを吐く時は必ず恋人にフられた時だというのをイギリスは知っている。 最初は普通に『慰めてー』だったと思う。 フランスが恋人にフられてイギリスが慰めるのは最早仕様であった。 最初の時は、…思い出すと屈辱だが、フランスがイギリスを召使だとかくそふざけた事を抜かしていた間のことだった。なんとなくそんな展開になって、その後女に振られたフランスが、そんな風に口説いて来たのだ。 その時にはフランスとヤった後だったから、「し、仕方ねぇな！これは一応主人に当たる人間をないがしろにしないという俺の矜持の為であってお前の為じゃないんだからな！」とかなんとか言ってあっさり引きうけた記憶がある。よく覚えてんな、俺。 それが、『遊びましょ』に変わったのは、イギリスがフランスに反旗を翻してからだ。最早イギリスの支配者ではなくなったフランスに対してぐるぐると思考が空転している間に、フランスが『じゃあ、遊んでくれるんでもいいから』と言い直したのだ。 今考えると『じゃあ』ってなんだと思う。じゃあって。 まあ、兎も角も、『遊んでくれるんでも』の台詞にイギリスはイギリス主体の『遊んでやっている』という口実が成り立つのを発見して、反射的に頷いたのだった。 それからいついかなる時であろうが、フランスは突然人肌を失った時に『遊びましょ』とやってくるようになった。 それはお互いをぼこっている最中でも同じで、バカげた台詞を吐きながら敵陣にやって来た時は本気で『こいつバカだ』と思った。 傷心だからといって、敵陣に乗り込んでくるなんてバカとしか言いようがないじゃないか。恋人を失った理由が敵の自分のせいの時なら尚更だ。（戦争なんだから当たり前だけど） 一度、「何で、俺の所に…来んだよ」と言った事がある。 野営の為のテントの中に潜り込んで来たフランスの首に手をまわし浅い息を繰り返しながらの台詞に、同じく上擦った呼吸でフランスが「何、坊っちゃん。心配、してくれてんの？やさしー」とかいうもんだから。「ちげーよ、バカ。今すぐ腹上死しろ、笑ってやるから」と返してやった。 お互い殴り合い中とはいえ、相手はムカつく敵とはいえ、何百年と生きていると妙に達観したというか、不思議な感慨になるものである。 腹立たしくて、いけ好かないが、情勢が変わればいきなり手をとりあう事だってあるわけで…。 この身の内に燃える感情を証明して欲しくて、フランスに答えを求めて、聞いた。怒りも憎しみも慈悲や慈愛に似たこの感情の答えを、問うたのだ。 けれども上手くはぐらかされて、以来今までその相反する感情に上手く名前をつけられなかったイギリスは、ある日突然、夢から目が覚めたように答えを手にいれた。 （あ、そっか。好きなのか） そう思った。それはストンとイギリスの心の中に落ちて染みわたった。 気付いてみれば簡単な答えだった。 ともすると愛憎は表裏一体だ。憎い＝愛ではないのだが、強烈なその感情はどちらもそれだけで体を満たすところがとても似ている。 イギリスの場合は恋の代わりに拳を。愛の代わりに刃をぶつけていただけに違いない。むき出しの闘争心を、フランスの瞳の中に映るイギリスの姿を確認する度に背中がぞくぞくと震えたものだった。 それがまさか愛とか恋だとか呼ばれるものだったとは今まで露とも思わなかったが、イギリスは答えを手に入れて妙に納得した。 そして今現在に至るワケだが。それは気付いてしまえばそれはとても温かく、イギリスを幸せな気持ちにさせた。 この綺麗で純粋なものを大切に守るために、『フランスともう寝ない』宣言をしたイギリスは現在大層幸せなのであった。 ＥＮＤ ------------------------------------------ 【あとがき】 2010.06.30に書き終えた長編だったものを、フォルダの中から引っ張りだしてリサイクルしてみました。 一番最初に書いたＡＰＨ作品だったりします。 どうでもいい裏事情としては、この後、仏英だった筈なのに普英に走って行ってしまって、なんか色々板挟みになって煮詰まり、お蔵入りになる所だったのですが、テーマとしては気に入っていたので、ショート作品で、という事でまとめてみました。 ちょっと斜め上を走っていく大英さまが大好きです。 知らない間に甘えている兄ちゃんとか、いいと思うのです。 up date 2011.07.02 ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |