七転八倒堂

【ある日それぞれのカルテッド】
仏→英で仏英といいはる。
米→日/（米→英）/（英日？）/日台要素も入ってます

「皆さんお疲れ様でした！」
乾杯！
声とグラスがかち合う音が重なって、それぞれが飲食を始める。
夏の祭典が終わり、大量の獲物が待つ夕食時、疲労の色は濃いが、顔色は悪くない。
それぞれが思うままに飲み食いをし、そそくさと後片付けをすれば、オタク達の事、当然のように獲物の鑑賞会となる。
黙々と読み進めてお目当ての作品をあらかた読み終えた頃、少しずつ会話が始まった。
「これ凄く面白かったです！」
「そうですよね！ハンガリーさんにはこちらもお勧めですよ！」
「日本、俺もこっち読んでいい？」
「どうぞどうぞ、こちらの順からお勧めですよフランスさん」
「にほんー」
「私の新作は開けちゃ駄目ですよ、アメリカさん！ちなみにアメリカさんへのお勧めはこちらです」
「お、それ良かったぞ」
「ですよね！テラモエス」
オールラウンダーな日本の周りにはタワー状のあれこれが並んでいて、日本はとても幸せそうだ。
自分のお勧め作品を勧める際などには、普段の彼はどこに行ったんだい？と思うほど活き活きとしている。
アメリカも、オタクなゲームは好きだ。だけど、この状況で一人ゲームというのは、何かが違う気がするのだ。何しろこの気持ちを分かち合う為には、ゲームというアイテムは時間がかかり過ぎる。
仕方なしにフランス向けに積み上げてある男性向け同人誌をいくつか手に取る。ぱらぱらと捲って、好きなキャラが可愛い事になっているのはそれなりに面白いなとは思うけれど、攻略感がないのが残念で、ハンガリー用に積んである本にも手を伸ばす。ぱらぱら捲って、こちらはストーリーものの紆余曲折なんかにもページが割いてあるのもあるんだな、と少しだけ感心したが、それまでだった。大前提が男同士だし。そんなに偏見は持っていないが、わざわざ好んで読もうとも思わない。
せめて某動画のように歌ったり踊ったりするような派手さがなければ…。
（そういえば、こういうのってどうなんだろうね？）
漫画の中の彼等は女の子にせよ女の子同士にせよ男同士にせよとても気持ち良さそうだ。アメリカは男を相手にした事がないが、そこにいるフランスなんかは好んで男とも寝ているようである。彼とは意見が合わない事も多いが美しいものが大好きな彼の美的センスやその料理の腕前は充分熟知している。
…となると、男相手というものの恋愛も一考の価値があるという事だ。一度くらいはアメリカも試してみるべきだろうか。アメリカはいつも一番で世界のリーダーでなければならないのだから。…食わず嫌いなんていけないんだぞ！
「アメリカさん？」
どうしましたと日本が顔を覗いて来る。気分でも優れませんか、そう問いかける彼の顔をじぃっと見た。
そういえば、彼なんてどうだろう。
アメリカは終ぞ燃えるような恋とやらをした事がない。国だけど性欲はあるし、好き嫌いもあるが、国だからこそ特定の一般人に思い入れる事もない。アメリカは終ぞそう思っている。だから、恋人と言ってもガールフレンド止まりで、ちょっと好ましいんじゃ無いかなと思える相手を常に選んで来た。
では、彼の場合はどうだろう。
男相手に恋愛をするのでも、システムは変わらないはずだ。
「アメリカさん？本当にどこか具合でも…」
「ハンバーガーが切れたんじゃねーの」
うん、フランスは無いね。有り得ないね！彼はいつだって俺の意見に反対するし、彼の料理は好きだけれど、絶対に無理だね！
意見に反対っていえばイギリスだけど、彼はいつだって小言ばっかりだし、嫌いじゃ無いけどムカつくんだぞ！料理も不味いし、俺はマザーファッカーでも無い。まあ、マザーじゃ無いけどね！
近しい仲で行ったらカナダも無いかな。一緒にいると楽しくて、愉快な相手だけど、彼は兄弟だ。楽しくて愉快な仲といえば、リトアニアだろうか。うん、彼はいいね！控え目だけど気も利くしトニーも彼を気に入ってる。一つ難をあげるとすれば、ロシアとの仲が近すぎるという事だろうか。
ロシア嫌いで、一緒にいて楽しく、ある程度従順で気が利く相手…っていえば、やっぱり目の前にいる日本なのかなーって思う。色々考えてみたけど、彼が一番しっくりくるかな。それに彼はちっちゃいから抱き心地は悪くなさそうだ。
うん。そうと決まったら早速実行だぞ！
「日本！」
「あ、アメリ…」
何時まで経ってもうんともすんとも言わないのにじれたのかフランスとハンガリーと相談していた彼の名前を呼ぶ。
振り返った彼の唇をおもむろに塞いだ。
「～～～～？！！？」
どこからか、口笛と黄色い悲鳴が聞こえてきた。フランスとハンガリーだ。
で、ご当人の彼はというと、カチンと凍りついてしまっている。きっとビックリしたんだね！でもそんな事はノープロブレムさっ！
「なあ日本！俺と一緒にジョイナスしようじゃないか！！」

草花が揺れるのと一緒に妖精さん達が可愛らしい声をあげる。
そんなゆったりとした午後の余暇を土いじりをして過ごしていたイギリスは、自分の家へと突進して来る足音を聞いて、溜め息を吐いた。
「イギリス、お客様ね」
「そうだな」
お客様というようなもんじゃねーけどな。
心の中で呟いてヤレヤレと腰を上げる。こんな風にドタバタとやって来るのはアメリカかシーランドくらいしかいない。これで心穏やかな休日とはお別れしなければならない。グッパイ俺の充実した余暇。
片付けをして手を洗う。
そうこうしている間に足音は近づいて来るわけだが…、
（ん？アメリカにしちゃ足音が軽いな…）
だが、シーランドよりも確実に軽い。
（ダイエットにでも成功したか？）
ありえねーだろ、と思って庭からそのまま玄関の方に回る。家に続く道の先から土煙を上げてやって来る人物を認めて、イギリスは心底驚いた。
「イギリスさんっ！助けて下さいっ！！！」
「にっ、日本？！」
そう、そいつはいつも奥ゆかしい日本だったのだから。

「ま、まぁ、茶でも飲めよ…」
「…すみません恐れ入ります」
漸く落ち着いた彼がソファーに悄然と座っているのを見ていたたまれない気持ちになる。
普段は大人しい日本だがある一定のキャパシティを超えると、南セントレアになるとか思いもよらない行動に出るのだが、どうやら今回もそのパターンに嵌ったらしい。
普段大人しい奴がここまで取り乱すと、物凄くどうにかしてやらないといけない気持ちになるものだ。それが、自分の手で教育して来たアイツのせいだというなら尚更。
「…その、アメリカがすまねぇな…」
「…いえ、イギリスさんが謝るような事ではありませんから…」
フフフ…と若干何かしら黒いものがあちこちから漏れている彼の笑いからするに、落ち着いたのは表面上だけらしい。
イギリスは日本の対面に座って、自身が淹れた紅茶を呑みながら痛む頭をコツコツと叩いた。
（アメリカが日本に告白…か…）
別に告白事態が悪いワケでは無い。アメリカが純粋に日本と恋仲になりたいというなら、とりあえずは邪魔するつもりなど毛頭無い。日本がどうしても嫌だというのなら、仲介役として取りなす事はしてもいいが、それ以上介入するつもりも無いのだが…。
『俺は世界のリーダーとして色んな経験をしないといけないんだぞ！勿論付き合ってくれるよね、日本！反対意見は認めないぞ！』
という事である。
巨大ロボットを作って地球を守るとかいう普段の意見すら可愛く思えるのだから重症だ。
いつもならば、そんなの認められるか！と一喝して周りを巻き込んでとりあえず保留扱いするのだが…
（…仕方ねぇな）
「いいぞ、日本。俺でよければ…だが」
「えっ」
「いや、違うぞ！べっ別にお前の為とかじゃなくて、アメリカをあんな風に育てちまった責任っていうか、責任もとれない男だと思われなくない俺の為であって…」
「本当ですか？！イギリスさん！」
『お前の為じゃないんだからな！』
まで、言わせて貰えなかった。やはり日本は相当追い詰められているらしい。
というか、思いっきり手を握られて、うるうるとした瞳で見上げられてるからといって、ドキドキなんかしてないんだからな！
「…お、おう。アイツは言いだしたら聞かねーしな。普通に注意したんじゃ関係ないで押し通されちまいそうだし、そうしたらお前もノーとは言い続けられなさそうだしなぁ…、あ！別におま」
「有難うございますイギリスさんっ！！！」
余程アレだったのか、日本がテーブル越しに抱きついて来て心臓が飛び出しそうになる。
ぎゅうっと抱きつかれてどきまぎした。
これがスキンシップ過多な欧米諸国だったら対処は決まっているが、今抱きついているのは日本なのである。
「に、日本…」
「あっ、も、申し訳ありません。取り乱してしまいまして…」
「いや、構わねえよ」
なんかいい匂いがしたし、とは言わないでおこう。
ささっと居住まいを正して、恥ずかしそうに頬を染める日本に向けて紳士然とした表情を取り繕う。
「…で、これからどうするか、だが」

続く≫

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