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「やぁ、ここは気持ちいいね」 イギリスくん家のサンルーム。 空調が利いていて、冬なんだけど美しい薔薇や緑が息づいていた。 ロシアはその花々に住まう妖精や、この家に住みついている者達に穏やかな気持ちで声をかけた。 妖精はロシア達を歓迎してくれたし、とても愛らしい。怖いモノも当然いるとは思うが同じ人外でも冬将軍とは違いどこか皆暖かい感じがするなぁと思いながらほんわかとした気分で身を落ち着ける。 ベラルーシがいるというのに結婚をあまり迫って来ずにいるというのも有り難い。 そのベラルーシは今キッチンでイギリスくんに悪態をつきながら昼食の準備中だ。 「なぜそこで重曹を手に取る馬鹿者めが。お前の脳はスポンジで出来ているのか？それとも目が腐っているんじゃ無いか？よくもそんな腕で自炊をしようと思ったものだ。兄さんに死んでお詫びしろ」 「そこまで言う事ねーだろばかぁ！」 …うん。言い方きついけどベラルーシがあんなに喋るなんて奇跡だよね。基本的にベラルーシは僕と姉さん以外はその他に分類してて、指一本でもその他の為に使うのが煩わしいと思っている節があるから、これって結構破格の態度。 イギリスくんの方も昨日まではその罵詈雑言に紳士ぶって耐えていたようだけど、今日はもうアメリカくんに対するように叫んでて、ちょっと打ち解けたみたい。 …そう、僕の企みは結構上手くいってるみたい。 最初、リトアニアからベラルーシが帰って来ないと聞いて、僕自ら携帯にかけても連絡がつかなかった時は背筋が冷えたけど、急いで戻ってイギリスくん家に押し掛けて見た時はまるで奇跡を見ているかと思ったんだ。 あの、ベラルーシがその他に分類されている他国の言う事をすんなり聞き入れるなんて！ 最初はイギリスくんに怪しげな呪いでもかけられたのかと勘ぐったけど、どうも違うみたいだし、だとしたら本当に凄い事だ。 そんなワケで僕の企みはというと、ベラルーシがもう少しイギリスくんと仲良くなってくれないかなっていう事。少しでも意識が逸れて僕にプロポーズする回数が減ってくれたらいいのになぁって思ったんだ。 上手くいかなくてもダメで元々って思ってたんだけど結構上手くいってる。思ったよりもイギリスくん家の居心地がよくて僕の機嫌がいいのもあるのかもしれない。機嫌を損ねないようにか、時々「結婚…」と呟かれる程度で逃げ出すほどではない。 本当にいい休暇だ。 「…そろそろ兄さんに食前の紅茶をお持ちしろ。ジャムも持っていけ。…お前のジャムと紅茶は悪くない」 凄い！ベラルーシがでれた！ イギリスくんも相手が女の子だからか「ああうんそっか、有難うな」とか言っててツンが無い。凄い。 そこでベラルーシが「別に」と返すとこがまるで奇跡か幻に遭遇したかのようだ。 そんなワケで僕としても、あのイギリスくん相手であってもちょっと寛大な気持ちになってあげられる。紅茶とお茶受け（主にベラルーシ作）を運んで来たイギリスくんに「ありがとー」と素直にお礼を言ってあげられる。 うふふふふと笑うとイギリスくんは眉を上げて「俺が休憩したかっただけだ」とかツンツンな事を言ったけれど、それはスルーしてあげられる。 イギリスくんはその素直になれない所を見逃して上げると意外に大人しい。その上「美味しいよ」と褒めてあげるとかぁっと顔を朱に染めてちょっと可愛いらしい。 日本くんがイギリスくんと上手くいっている理由がなんとなく分かった気がする。ニコニコと笑って穏やかに過ごせる時間にイギリスくんは結構弱い。皮肉屋なのも三枚舌で非道なのも彼の一面であるとは思うのだけど。 「薔薇も綺麗だし、妖精さん達も可愛いくて、僕ここ好きだなぁ」 紅茶を飲みながら呟くとイギリスくんが穏やかに笑った。その笑みに普段はよく落っことしてしまう心臓がとくとくとその所在をつげた。 「…あ、でも侵略は許さねーぞ」 …可愛いくないね。 「分かってるよそんなの」 むっと唇を尖らせて不機嫌を表すとイギリスくんが「悪かった」とくすくす笑った。その表情があまりにも優しかったので、不問にしてあげる事にする。 ああでもイギリスくん欲しいなぁ。 イギリスくんがティーカップをソーサーに戻すと編み物を始める。キッチンからは美味しそうな香りがして、部屋は暖かくとても穏やかな空気だ。 イギリスくんの所も結構寒いのだけど、暖炉の炎は自国でいつも見るものより暖かそうに見えるし、こんな風に毎日が過ごせたらどんなに楽しいだろう。 ここに姉さんも加わって、ドジっ子な姉さんにイギリスくんはハラハラしながら仕方ねぇなぁと世話を焼くに違いない。ついでに僕に対しても穏やかに「ロシア」と呼んでくれるといい。 それはとても幸せな風景だ。 そんな夢の王国なんて叶う事がないっていうのは分かりきっているけどね。 「…ロシア？」 「なぁに？イギリスくん」 今思い描いた空想のようにイギリスくんが僕の名前を呼んだ。 イギリスくんは少しばかり困った顔でこっちを見ている。 「…あー、えーと、どうした」 「何が？」 「…なんか、すげぇ…顔してんぞ」 「ええ？『すげぇ顔』ってどんな顔なの？僕はね、ただここに姉さんがいたら楽しいだろうなって思っただけだよ」 そう告げるとイギリスくんはそうか、と告げて編み物に目を戻した。でも口許が何か言いたそうに何度も開閉している。 僕がぼんやりとその様子を眺めていると、イギリスくんは目もあげないまま「あー」と唇を開いた。 「…薔薇が見頃になったら…。…今度は三人で茶でも飲みに来るといい」 招待してやらなくもない、とぼそぼそ告げるイギリスくんを、僕は目をまるくしてしばらく眺めた後で彼のリミッターが振り切れて前言撤回しない内に「有難う」と囁いた。 夢の王国は作れなくても、幸せな風景はこの手に届きそうだ。 ＥＮＤ 2010年の冬頃に書いた話。 英ベラで行くか、露英でいくか、心底悩んでソビエーズでほわほわしながら愛でられ愛でればいいんじゃないか、という結論に達したんですが、分類に酷く迷ってずっとお蔵入りになっていました。 （因みにむしろ、ソビエーズで行くか、芋兄弟で行くか悩んでたんですが、実際書いてみたら不憫がぶっちぎりで私の体質にあっていて現在に至ります。でも、露英もピンでちょっと長い話書けそうなんですよね…。因みにLoversに露様が入っていないのは、女の子じゃ壊れてしまいそうで露様が縋れないので入る余地がなかったからでした。露様は壊しても壊れ無さそうなモノが好きそうなイメージなのです＝（男の）イギリスさんの屈強な愛情） 気になる、と仰っていただけたので、アップしてみたのですが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。 次回の更新は（※この話の続きではない…は）いつものように１０日後くらいになると思います。 最後までお付き合いください有難うございました♪ 2012.06.29update ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |