■【裁きの剣】■
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「月くーん!」 「何ですか、松田さん」 「…何でそんなに殺気立ってるんだい…月くん…」 暢気な声が聞こえて、月は大理石で出来た廊下をカツカツと音を鳴らしながら歩きつつ、追いついてきた松田に視線を流す。 「…ハハハ、殺気立ってなんていませんよ」 (いや、どう見ても殺気立ってるってゆーか不機嫌極まりないと思うんだけど…) 月の声と顔を見て、一歩たじろいだ松田は、けれど月の隣に並んで歩き始めた。 【裁きの剣】 「…ん?」 チチチ…と小鳥の囀りで目を覚ました。 少しばかりぼんやりする頭で、今何時だろうかと推測する。 薄明るい太陽の光が、まだ明け方近くだと教えてくれていて、月は早起きは三文の得、とばかりに体を起こした。 このまま何時もの通りに、軽く汗を流して、水浴びをして、朝食を食べて、出勤ー…。 一糸乱れぬ完璧な朝を思って、月は少し首を傾げた。 何か、忘れているような気がするー…、 軽く汗を流して、水浴びー…? 何か気になるキーワードだと思った。しかも、やけにすっきりしたこの爽快感。 「あっ!」 小さく叫んで足元を見る。 Lが、いない。 気配も、温もりさえも残さずに、彼は消えていた。 …と、すると。Lが去ったのはかなり前の筈だ。 きっと、月が寝付いた頃ー…。 そう考えると、胸がムカムカして腹が立った。 昨日はあんなに楽しかったのに、それが夢幻かのような虚無感を突きつけられた気がした。 最後に、Lの体を抱き寄せて眠った感覚だけが僅かに腕の中に思い出せた。 朝、起きたら昨日の返事を聞いて、思いっきりからかってやろうと思っていたのに。 Lの黒髪に口付けて、ちょっとだけ優しくしてやろうと思ったのに。 「…なんなんだ」 残念がっている胸の内を否定するように、月はLの身勝手さを詰る。 そしてー… 「でね、月くん聞いてる?」 「…は?」 今に至る。 「…聞いてなかったんだね…」 「あぁ、すみません。少し考え事をしていたもので…」 「そっかぁ。あ、もしかして彼女の事とか?うっかり逃げられちゃったとかさー…」 「ハハハ」 「……ぇえと…」 冗談で言った筈なのに、体感温度が10度くらいさがった気がして、松田は視線を泳がす。 鈍いの空気が読めないだのと言われ続けているが、流石にここまであからさまだと気づかずにはいられない。 「…ぇえと…、あっ!そうだ!!東にある朝日の国が攻め入ってこようとしているんだって!」 「!…松田さん。それどこから聞いたんですか?父から?」 ちょっぴり身の危険すら感じていた松田は、月の思考が私から公へと切り替わったのを感じて、ほっと息を吐いた。 それから、彼の真剣な瞳にエヘン、と胸を張る。 「違うよぉ!月くん。これは僕のとある情報筋から得たビッグニュースさ!」 「…なんだ」 「Σ『なんだ』って酷いじゃ無いか、月くんっ!僕の情報が信じられないのかい?」 得意気にこそりと伝えたつもりの重要な情報を『なんだ』の一言で片付けられて、松田は膨れる。 普段はお荷物状態の自分が掴んだトップニュース。きっと『凄い』と誉めて貰えると思っていたのに。 「えぇ、まあ」 さらりと、松田の心境を知った上で月は即答する。普段は温厚な月が時折自分にはこういう冷たい態度を取る。 (今日は特に不機嫌だったしなー…仕方ないかなー) それを松田は自分への友情の証だと思った為、溜め息一つ、月の冷たい横顔にめげずに話かけた。 「そりゃ、さ。前の時にも僕が誤情報を掴んできたり、聞き間違ったりして迷惑をかけたけどー…今度こそ、ホットでクールな特ダネなんだよー」 しおしおと、朝の過ぎた朝顔のごとく、萎れる松田のホットでクールらしい…だからどっちなんだ、な特ダネを月は仕方なしに聞いてやる事にした。 松田の掴んだらしいこの情報が故意に掴まされた誤情報であったとしても、情報には違い無い。むしろ、そんな誤情報が飛び交っている方が更に大変だ。かの国のスパイが我が国の上層部まで食い込んでいるという話にもなりかねない。 「…どこで聞いたんですか、そんな話。ニュースソースは誰から?」 ちらりと視線をやると、松田は水を得た魚のように元気に喋り始めた。 月はちょっとだけうんざりした。 To be continiued …アトガキ… 久しぶりですね、更新〜!楽しみにしてくれてた方がいらしたら申し訳無いです…。 しかし久しぶりの更新なのに愛しのLたんがいません(笑)うむぅ…。 しばらくはこれの更新が進めばいいなあと思います。 2006.01.13 水野やおき ≪back SerialNovel new≫ TOP |