■【裁きの剣】■ 14

「お疲れのようですね、月くん」
「…L、か」


【裁きの剣】



月は忙しくなった。
元々忙しい身ではあったが更にだ。
朝日の国は東にある大国で、密かに月はかの国を狙っていた。
現在かの国は国名にあらず没しようとしている。
法は荒れ、無慈悲な国主が民を虐げているならば、月がかの国を陥落させたとて誰の文句も出ない筈だ。
月の望みは全国土の支配である。
完璧な支配とは言わなくともそれに準ずる支配でいい。
その為に月はかの国と戦わなければならない。その為の準備もして来た。
密かに朝日の国に密偵を潜りこませ、早く内部崩壊させるように画策し、エデンが干渉出来るように向こうからの開戦を促すように仕掛けもした。
エデンと朝日の国が好戦するのは予定の内だった。
…が、月が予定していたよりも、速い。
本来ならば2年は後の筈だった。それに合わせて軍功も立て、ミサと結婚し皇帝になる。それが理想だったのだが。

「…L、か」
月はLの姿を見つけて、眉を寄せた。
今はLと関わっている余裕など無い。それに今となっては逆に関わら無い方がいいとさえ思い始めている。
「こんな所でどうしたんだ?何か用か」
「ええ。待ってました」
だからか、我ながら冷たい声になったと思った。が、Lはそんな事は一向に気にしないというように、さらりと頷く。
眉ひとつ顰めないLに、月の方が眉間に皺を寄せてしまった。
「…何?」
馬を厩に預け入れ、庭にてLの用件を聞こうとした。Lを抱いた自分の部屋に彼を通す気にはなれなかった。拗ねていたのも多少ある。
そしてやはりLは頓着せずに、背を向けた月に淡々と告げた。
「そろそろお暇しようと思います。2・3日中に」
瞬間、頭が真っ白になった。
Lの言っている事が即座に理解出来なかった。
「お世話になりました」
「…え」
「本当は当日にも、きちんと挨拶をしたかったのですが…。近頃の月くんはとても忙しいみたいなので、今日」
「…花園が?」
「ええ。この頃の天候を見ましてもそろそろだと思いまして」
「…そうか」
Lの言葉を理解して、月は呆然とそう答えた。
「…確かに、忙しい。お前達が出立する日にも帰れるとは思えない。」
「ですから、お会い出来るのは本日が最後でしょう。沢山良くしていただいて何のお返しも出来ませんが」
「…いや、いや。それは、別に」
半ば上の空で、月は会話をこなしていく。
チラリと、礼と言うならばミサに会ってくれ、と言いそうになったがそれはこらえた。
引き留める口実になんてならない。
(…引き留める…だって…?何を考えてるんだ、僕は)
「とても楽しかったです。有意義な日々でした」
「…僕もだ」
そこでLはにこりと笑った。
「さようなら、月くん」






その後、女官の手から僕宛てにLからの贈り物を受け取る事になったのだが、手をつける気には到底なれなかった。
彼の贈り物は、月がLをもてなした総ての価値さえ超えるような最も手に入れ難い類の薬の数々と、人魚の鱗のような七色に輝く薄い宝石だった。



To be continiued



…アトガキ…
甘くなったと思ったら、急激に別れがやって来ました、ごめんなさい、水野です。
長いなーと思います。展開的に。
いつまで書く気だこの野郎、ってくらい頭の中で話が広がってます。いえーい…
因みに宝石。
そんなんがあればいいなーって位の想像の品です、ごめんなさい。
謝ってばっかりです、ごめんなさい。

2006.01.15
水野やおき


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