■【冬の陽だまり・夏の影】■ 14

【冬の陽だまり・夏の影】
―13―


 パンパン!と柏手を打って瞑目した。
 照はクリスチャンだが、だからといって、える一人で参拝させるわけにもいかない。
 要は、願いを伝えなければいいのだ、と思って顔を上げると、隣で静かに目を閉じているえるの色白の横顔が視界に映り、それに束の間見蕩れてしまったことを恥じるように照は顔を背けた。
「行きましょう」
「ああ…」
 祈りが終わったのか、肘の辺りをくいくいと引かれて、照はちらりとえるを盗み見る。
「ワタリに破魔矢を買ってくるように言付かっているので付き合ってもらえますか?」
「分かった」
 照の短い返事にえるの目尻が伸びる。その包み込まれるような表情に、照は思わず手に喉をやった。
「喉、渇きましたか?甘酒を頂きましょうか?」
「…お前はまた…」
 眉間に皺を寄せると、えるがバレましたか、と笑う。
「地元の神社の楽しみといえば、これと屋台じゃないですかvV」
「名前からして『酒』ではないか。二十歳までは飲酒は禁止だぞ」
「何言ってるんですか!バナナがおやつに入らないのと一緒で、甘酒もお酒には入らないんですよ!?」
「早く破魔矢を買って来い」
「どうしても駄目ですか」
「駄目だ」
「もー…分かりましたよ」
 不貞腐れてそれなりに混雑している社に破魔矢を買いに行く後姿を追っていると、隣に気配を感じて、つと振り向く。
「びっくりね。まさか貴方が本気でお付き合いしてるなんて」
「高田…」
「彼女のどんなところが無骨頂な貴方にそんな顔をさせるのかしら?とっても不思議よ」
 レモン色の振袖を着て隣に立っている高田から目を離して辺りを窺うと、「夜神くんは家族と初詣」と返ってくる。
「私は夜に済ませたから、友人に誘われるまま来てみたのだけれど。面白いものを見せてもらったわ。…本当は、ただ単純に夜神くんに嫉妬しただけだったりして」
 思わず目を剥いて高田を注視すると、すっと目が細めて「そんな怖い顔でみないでよ」と返ってくる。
「今のは冗談。じゃあ、またね」
 言いたいことだけ言って、さっさと去っていく高田を尻目にして、照は鳩尾に手を触れる。
 ムカムカと言いようの無い不快感が湧き上がって、顔を顰める。
(馬鹿な…。そんなはずは無いだろう…。…いや、しかし、無意識に…?)
 今までの行動を反芻して、どっと気分が悪くなった。
 もし、そうだった…と、したのならば。自分はとんでも無い悪ではないか。
「買ってきまし…どうかしましたか?!」
「いや、なんでもない…。甘酒は却下だが、屋台なら…」
「何言ってんですか。そんな事はどうだっていいことです。気分が悪いなら、すぐに帰りましょう。…ああ、その前に少し休んでからにしましょうか…」
 照の身体を両手で支え、辺りをきょろきょろと見回すえるをじっと見守る。
「竜崎…」
「!」
 名前を呼んで、律儀に振り返ったえるの唇を掠め取る。
「休む必要はない」
「…それだけ元気があればそうみたいですね…。…でもこんな所で…、本当にどうしたんですか」
「…整理が出来たら、話す」
 睨みつけられて、その後に心配気に探られる。それに簡潔に答えた照に、えるは「まあ、いいでしょう」と答えた。


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