■【タイム・リープ〜黒いトンネル〜】■ 03

そうして、月達が捜査本部への岐路へつく中、ちょっとしたハプニングがあった。
情けないことに、世界の切り札が警察に目をつけられたのだ。
月はそれを笑いながら揶揄した。
竜崎はそれを痛くも痒くもないというように、けれど面倒なことにならぬようにちょっと撒きましょう、といつもの顔で提案した。
そして月は竜崎の手を引きさっと細い路地を曲がった。路地裏に入りこんだように見せかけてビルの非常口から何の気なしに正面玄関へ抜け出してみせたのだが、その先の世界は、何をとちったのか黒と白で出来たトンネルだった。
更にそれを抜けると、今の現状。つまり気付けば捜査本部のモニタールームだった。


【タイム・リープ】
―黒いトンネル―#3



部屋が一旦暖まってくると、少しは人心地についた気がした。
「長年誰もこの部屋を使ってなかったようですね…、一応一部外部のカメラが動作しない以外はこの建物のそのものの機能は私を認識しますし正常に動くようですが…」
「相手方の通信機能は全滅ってわけか…」
「ええ…」
「今現在2014年11月4日。午前7時10分、外は猛吹雪…?」
まったくバカバカしい、と月が溜息を吐くのと同時に、Lがぎっと椅子を軋ませて立ち上がった。
「どこに行くんだ?」
「バカバカしかろうと、リアルな夢であろうと、とりあえず私達の感じている感覚は本物です。とりあえずは食料の問題を解決しなければ」
「…確かに合理的だけど、別にもう少し後でもいいじゃないか。っていうか何、このビル食料も置いてあるの?」
「後だなんて嫌ですよ、私はそろそろ糖分切れです。そんな状況では推理力が落ちてしまいますし、もし空っぽの場合は何か対策を考えなければなりませんから一刻も早くしなければ。とりあえず、生命を維持できるだけの食料なら、そうですね、2人なら1年分はゆうにあるんじゃないですか。使われていなければの話ですが」
「要塞か、ここは」
「そうですね、あらゆるケースを想定して要塞並みの堅固な造りにしてありますよ…まあこういう状況は想定していませんでしたが…」
「確かにね。でも…まったく恐れいったよ…。どれだけ注ぎ込んだんだか。まあそのお陰で助かったけど。ここのシステムが外部に頼るものだった場合、僕らは凍死してもおかしくない。その上餓死しないで済むのなら活路は開けるかもしれないものな」
「はい、そういうわけで、調べにゆきましょう…。何をするにせよ、まずはライフラインを抑えなければ」
日頃はいっかな精神を乱すことの無い竜崎を苦々しく思ったりもするが、やはりこういうときには頼もしい。敵ならば最大に厄介な相手だが、味方ならばこれ以上なく心強い。そう思わせる人間だ、竜崎は。そんな風に思う己に苦笑を禁じえない。
竜崎と共に地下に降りるエレベーターに乗り込んでから、冷たい箱に頭を預ける。
「どう、思う?」
普段は気にとめない機械音が今はやけに耳に痛かった。
「夢か現実かという話ですか?」
「ああ。これがただ単に僕の夢ならいいんだけどね、早く醒めてくれることを祈るだけだ。竜崎と世界に二人きりだけだなんて笑えない。」
「先ほど自分を売り込んで来たくせに、もう前言撤回ですか?でもまあ、私もこれが私の夢だったらいいと思いますよ。夢だとしてもどうしてキラと二人で紛れ込んでしまったのか理解に苦しみますけど…」
淡々と皮肉を返されて、むっとしながらも月はすぐに臨戦態勢を解いた。竜崎といざこざを起こしている場合じゃない。今は落ちつかねば、と月は『生涯賭けての敵とはいえ、今は竜崎の存在が有難いじゃないか』と言い聞かせた。
「そう喧嘩を売るなよ」
と呟くと「そっちがふっかけてきたんです」なんて身も蓋もなくいうものだから、折れてやる。
「悪かったよ。…僕が悪かった。もし、今の状況で相手が一人だけ選べるとするなら、僕は竜崎を選ぶ。さっきのは言葉の綾だよ」
「そうですか…さぞかし私は利用のしがいがあるでしょうしね。私はキラと心中なんて真っ平御免ですが」
「竜崎」
「一回は一回です」
心なしかむっつりと竜崎が吐いて、それからこれ以上無駄な体力を使うのはやめましょう、と呟いた。
(だったら、最初からやめとけよ…)
という心根は口にだすことはせずに「分かった、OK」と了承を表す。同時に、チンという軽い音と共に扉が開いた。
エントランスのような小さなホールにはまた扉があり、竜崎がその壁にあるパネルを弄ると閉ざされた扉は静かに開いた。
「…全て、残ってますね…」
言いながら荷物に歩み寄り、膝をついて箱を検分すると少し暗い顔をした竜崎に、月は小首を傾げる。
「残ってて良かったじゃないか。何か問題があるのか?」
「………この中から甘味を探すのは大変です」
はあ、とわざとらしく溜息を吐かれて、月は心底呆れてしまった。それから少しだけ笑う。
「こんな時にも糖分が優先なのか?」
「推理力40%減ですから。死活問題ですよ、死にたくはないでしょう?」
「仕方ないな、僕も探してやるよ」
そうやって少しづつ笑ったら、なんだか大丈夫な気がして、月はやっぱり軽く笑った。




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