■【タイム・リープ〜黒いトンネル〜】■ 05

「…これはもう…吹雪いていようと、外に出た方が早いんじゃないか?生きてる人間を探すとか」
「そうですね…」

【タイム・リープ】
―黒いトンネル―#5


更に数時間、部屋で二人がかりで生きている回線がないか調べたが、どうにもならなかった。少なくとも日本のHOTラインは壊滅的で、無線で世界中に呼びかけてもみたが、応答するものもない。もうこうなると、本当に世界に2人きりなんじゃないかという気にさえなってくる。
月が何度目かも分からない溜息をついて立ち上がり、「竜崎」と外に出ようと促すと竜崎はまだ椅子に座ったままガジガジと爪を噛みながら視線だけをあげて来た。
「何」
「ヤバイです」
「え?」
「外に出ている場合じゃありませんよ、月くん」
「?」
思わず目を見張った月に対して、竜崎はというと、一旦爪を噛むのをやめて酷く真面目に窓を見遣った。
「吹雪のせいで窓の外、見えませんよね」
「…ああ…」
「カメラも凍り付いていて動かない。お手上げです」
「ああ…」
「積雪量、どのくらいだと思いますか?おそらく扉、開かないと思いますよ。出るとしたら窓からです。それも10階くらいまで凍ってるんじゃないですか」
「!」
「今は奇跡的に空調が動いてますが、それも時間の問題のようです。ここは気密性が高いので機械の方もなんとか凍らずに動いていましたが、換気の為にはダクトを開かないといけません。今は日中なので、まだ気温も少しは高いのでしょうが…、このままでは陽が沈むにつれ凍りつきます。早急に空調を切りまずは生き延びる対策を練らなければ」
「…嘘だろ?まさか、そこまで…」
声がからからに乾く。先ほどまで安全な世界にいたこととのギャップに戸惑った。
「恐らく世界は氷河期に入ってるんじゃないですか。もたもたしていれば確実に死にます。まずはあるだけの服を着込んで空調を切りましょう。そして出入りの出来そうな階を調べてから各階の通路は閉じます。これで随分と違うでしょう」
「………」
驚きのあまり声のない月を急かすように竜崎が立ち上がった。つかつかとクローゼットに近寄ると同じ白のロングTシャツやジーンズがずらりと並んでいる方ではない、つまり月の衣服が入っている方の扉を幾分乱暴に開いた。
「もっと、厚着をしてください」
ばさっ、ばさっと防寒性に優れていると見なされるものから投げられて、月はごくりと不安を嚥下すると「分かった」と頷いた。



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