■【らぶラブらぶ】■ 17

… side アーサー …

(どうしよう…)
一日中、アーサーの頭の中はギルベルトの事でいっぱいである。
触ってくれ、などとふざけた事を言われたのが昨日、妙に意識しまくって挙動不審になっている自覚がある。
(…あんな事されて意識するなっていう方が無茶だよな…)
キスをされて、ギルベルトの性器を触った。部屋は暗くされたので、物体そのものを目撃したわけでは無かったけれど、熱くなって反り返っている彼の雄の象徴をアーサーはその手で触ったのだ。
今でも思い返すと顔から火を噴きそうになる。
(……………)
ギルベルトがアーサーの事を好きだと言う。
そんなワケねぇだろ、と思うものの、反応したそれを擦りたてて、キスもした。そんなワケねぇこともない。
(っていう事はルートヴィッヒが正しかったって事か?)
だが、アーサーだってちゃんと確認した。一緒のベッドで眠った時、アーサーが触るまで反応などしていなかった。その後は寝てしまったから断言はできないが、襲われては、いないはず…。
普通、知られてしまえば、その事実を指摘するだろう。しかし、ギルベルトは押し倒して来た時も『男っぽくない』という表現を使った。
(知ってたらわざわざ『男っぽくない』とか言わないだろ…?)
知られてしまって、且つノンケであれば、知っている事をバラした上で、事に及ぼうとするのではないだろうか。面倒事に関わりあいたくなくて、知らんふりをしているのならば、今度は押し倒そうとするのがおかしい事になる。辻褄があわない。
(けど、あいつ…俺のこと好きだって言ってたしな…。気付いてて、言ってこない…ってのは、あるか…?)
考えてみたけれど、可能性は低いような気がした。どちらかと言えば思い悩んで思考のループに陥るよりも即座に行動に移す事で解決を図ろうとするような性格に思える。ヌけない事に追いつめられてあんな事をするくらいだから、知っていれば言ってくるのではないだろうか。
『誰にも言わない、秘密にするからさせて欲しい』
そう言われれば、頷く他はない。どうせ脅すのならば効果がある方を選択する筈だ。…ということは、恐らくばれていないのだろうと思う。
(バレて無いとして、あの日勃ってなかったのは何でなんだ?)
あの時は好きだと思ってなかったという事だろうか。しかしそれはあまりにもおかしすぎやしないだろうか。その2日後に好きだと言われて押し倒されたのだから。
(んんー…。好きだって気付いて動揺してAV見て…ノンケって確認しようと思ったらヌけなくなっててあんな行動に出たとか?)
考えてみるとありそうな気がした。
(それか…好きだって思ってたけど、男同士だから性的な意味じゃなくて友達の延長線上だって考えてたとこに、俺があんな事したから意識しちまったって所か…)
考えられる範囲としてはそんなものだろうか。
手で触ってくれなきゃ襲う、などと言われたけれど、最初の前提は触れてくれたらそれだけでいいという事だ。もしかしたら『襲う』というのははったりという線もあるのではないだろうか。あの巨乳好きの事だ。わざわざアーサーの貧弱な…男だと思っている体に触れたいとは思わないような気がする。
ギルベルト自身言っていたではないか、キスくらい男も女も変わらないと。男っぽく無い手だとも。裏を返せば女っぽい手だと思っているという事だ。
それはつまり、服を脱がず、ただ手で触ってもらう分には、女としているのと変わらないと結論づけた、そういう事だろう。
(それって失礼すぎやしねーか?)
アーサーが男だったら、憤慨ものである。好きだというのなら、いくらそれっぽくてもちゃんと受け入れるべきではないのか。好きだからと言って女の代わりに手を出してくるなんて最低だ。
思わずむっとして眉間に皺を寄せる。幸いかどうかは分からないが、一応アーサーは男装しているだけなので、傷ついたりしていないが、男だったら殴り倒すだろう。というか、傷ついて泣いてしまったかもしれない。
(ってこれじゃああいつの事好きみたいじゃねーか…)
失礼な事に憤慨するのは当たり前の感情だ。普通、憤慨してその程度の人間かと見下して終わりだろう。しかし、傷ついて泣いたり絶望したりするのは、そもそも相手に好感を持っていないと成り立たない事である。
(そ、そりゃ、嫌いじゃねーけど…)
だが、恋愛的な意味合いで好きなのかと言われたら答えようがない。そもそもアーサーにはこれまで恋愛の経験がないのだ。どういう好きが恋愛的に好きなのか分からない。
(キスしたり、抱き合ったりしたいって事なら…)
特にしたいと思ったわない。
でも、それは昨日までの回答だ。今のアーサーはギルベルトとしたキスの良さを知ってしまった。恥ずかしながら下着まで濡らしてしまったくらいである。つまりそれは性的興奮を覚えたという事だが、しかし抱き合いたいかと言われれば微妙な所だ。でも、キスはまたしたい。
(だから、あんな微妙なこと言っちまって…)
キスをするな、と言いながら、仔細を問われれば雰囲気で分かれなどと濁してしまった。本来ならどこにもするな、と言うべきである。…なのに。
これはギルベルトが好きっていう事なんだろうか?
分からない。
「なーに百面相してんのよ、坊っちゃん」
「…なんだ、お前か」
不愉快な声にむっつりとして顔を上げるとフランシスが呆れた顔をして立っていた。まったくもー、と手近にあったソファへと腰を下ろしている。
「『お前か』は無いでしょー。呼び付けたのはお前じゃん。それでどうしたのよ。レクリエーションの事?」
「ああ。それもあるんだが…お前、いいポルノビデオ知らねー?あんま手に入らないやつ」
言ってしまってからはたと気がつく。詫びなら昨日強引にさせられた恥ずかしい事で充分ではないか。しかしもう言ってしまった後である。
「なぁ〜に?珍しいじゃん。没収品だけじゃ満足出来なくなっちゃったの?このムッツリ」
「うるせえよ節操ナシ。で、どうなんだよ」
しかしまあ、ずっとあんな事に付き合ってやるわけにはいかないし、断り続けていきなり襲われるのも困るのでまあいいやと続けると、「俺を誰だと思ってんのよ」とニヤリと笑われた。何の自慢をしているのやら。
「で、巨乳のやつ?」
お前巨乳好きだもんね、と言われて反射的に俺のじゃねえよ、と言いかけたが、では誰のだと言われても困る。で、自分の趣味云々には口を出さず無視をした。
「…巨乳のと…」
あとそれ以外ので何かいいやつ、と言おうとして口を閉ざす。最初はギルベルトの好みを慮って2本頼む予定だったが、巨乳の方はともかく、もう一本はやめておいた方がいいような気がする。
(最近好みが変わったってのは、…もしかして俺のせいか?)
アーサーを男だと思っているけど、好意は持っている。だから性的欲求を自覚してはいないけれど、似たような体型をした娘をおかずにしたい。そういう流れなんじゃ無いだろうか。なので、こう…つるぺた属性に走っていった…と考えるとなんか納得がいく。
(あの野郎…)
なんか腹が立ったが、話の途中なので今は置いておこう。それよりも、今はギルベルトの意識をこれ以上暴走させないことが先決だ。あいつは何を着々とゲイの道に走っていっているのだろう。その内「男とか女とか関係ないぜ。同じ人間じゃねーか」とか言い出しそうな気がしてきた。女相手だってアナルセックスをすることだってあるのだし、あり得ないことではない。
「それだけでいいから、すげーやつ頼む」
「すげーやつって言われてもねぇ」
くつくつと笑われて、睨みつける。からかわれるのは好きではない。
「とにかく、いいやつだよ。路線でいったら、あの子とか、あの子とかその辺のイメージで、もっといいやつ」
「ノーマルだけど、演技力がいいってこと?」
「そんなとこだ。可愛くて、スタイルよくて、カメラワークとか演出とかもいいやつだとなおよい。男なら誰でもヌけるようなヤツ」
あこれこと注文をつけると、フランシスはご自慢の緩やかで柔らかい髪を掻き混ぜながら「まあいいけど」と苦笑して、気をとりなおしたように口をひらいた。
「オークションで競り落とすからちょっと時間かかると思うけど、いい?」
「どれくらいだ?」
「一カ月程度かな」
「ならいい」
アーサーが頷くとフランシスは気軽に了承の意を告げた。

数日経てば、レクリエーションという名の球技大会である。
スポーツを通じて仲を深めようという試みは、毎年春に行われる恒例の行事だ。
アーサーは生徒会会長としてのやることを終えると、ペットボトルと弁当の入ったケースを抱えて歩いていた。怪我をして保健室送りとなったクラスメイトに代わって、昼食用の弁当と飲みものを運んでいるのだ。
いつもは各自弁当やら学食やらとバラバラに食事をとるが、偶には同じ釜のメシを食べて団結力を図りましょうよ、という事である。
アーサーはケースを抱えなおすと、少し離れた所に注がれている春のうららかな日差しに目を細めた。アーサー自身は日陰を歩いている。
まだ冷えることもあるとはいえ、太陽の日差しの下を重装備でうろつくのは大変熱いのだ。
出来る事ならカーディガンを脱いでしまいたいが、なるべく体型を誤魔化したいので我慢している。
日陰を歩くことで負担を軽減しながら、グラウンドへ向かう。
近くに寄ると、賑やかな歓声が聞こえた。
ホイッスルが鳴って、準々決勝に出るクラスが決まると、生徒会役員の一人が休憩を告げた。
(やべっ)
アーサーは間に合うように急いでグラウンド端を抜ける。何気に重いし、型崩れをしてはいけないので、速足くらいになった。
自分のクラスの奴らを見つけて近寄ると、耳に慣れた声が聞こえる。
「やっぱりウチは強いで〜」
「ケセセセセ!流石は俺様だよな!」
「いや、俺の活躍のお陰やん」
「そんなことより、お兄さん超喉乾いたんですけど」
「そういや弁当、あいつが運ぶんとちゃうかった?」
「あー…」
「持って来てやったぞ」
フランシスがかったるそうに唸った所で、割り込んだ。クラスメイトがアーサーを見つけてわらわらと寄って来る。
事前に取った希望の飲み物を渡してやると、皆周りに座って弁当のフタを開け始めた。
「アーサーもたまには役に立つやん」
「バカヤロー。ドリンクを注文制にしてやったのは誰のお陰だと思ってる」
へら〜と笑って近寄るアントーニョに、彼のぶんのドリンクの端を軽くぶつけてやると「そうやったー」と抜けた顔をする。以前、弁当と同じで一律だった飲み物を注文制にしたのはアーサーである。共同意識というのは分かるが、飲み物くらい好きなものでもいい筈だ。
しかし、気を抜いている時のアントーニョはどうにも憎めない。アーサーはそれ以上追及せず、弁当を突き出した。
「坊っちゃんお疲れー。いや〜、俺取りにいかなきゃいけないかと思ったよ」
アントーニョがそれを受け取ると、今度はフランシスが声をかけてくる。気安く肩に触れてくる手を払いながら、「お前の分だけは置いて来てあるから安心して取りに行って来い」と軽口を叩く。フランシスが「つれないねぇ〜」と自分の分の弁当とドリンクをひょいっと取りあげたので、アーサーは最後に残ったギルベルトの取り分を手渡した。
「ん」
「おう」
「そういえば、担任が優勝したらアイスって言ってたぞ」
忘れそうになっていた事を告げると、「おお〜」と周囲から歓声があがった。
学園に通う半分はかなりいいとこの坊っちゃんであるにも関わらず、こういう時の景品は嬉しいらしい。
「因みに優勝狙えるのはサッカーだけらしいから頑張れよ」
クラスメイトはサッカー、ベースボール、バレー、テニスに分かれてそれぞれの分野で優勝を狙うのだが、どうもサッカー以外はすべて敗退したらしい。励ましの言葉をかけて立ち上がると、「おい」と声を掛けられたので声の主を見下ろした。
「なんだよ」
「いや、お前ここで食べねーのかよ」
学園では話かけるなと言ったのにと思いながら、まあクラスメイトの会話の範疇かと思いなおす。
「ああ。これはあいつの分だから届けてやらねーとな」
「ふーん」
それ以上の追求が無いので、「じゃあな」と背を向けると、「なあ」と更に声がかかる。
「ぜってー優勝するから後で見に来いよ」
どこからその自信が湧いて出るんだと思いながら「気が向いたらな」と歩きだす。確かに決勝戦くらいなら見てやらない事もない。きっと負けた他のクラスメイトも応援しに来るのだろうから、アーサーが出て来てもそんなに目立たないだろう。
そんな風に考えながら保健室に向かい怪我人の弁当を渡すと、アーサーは生徒会室で決勝戦までの時間を過ごす。誰もいない空間は気を張らないですむ分、酷く落ち着く。
校内アナウンスでサッカーの決勝戦の対戦相手が発表されるとアーサーは立ち上がった。
中々面白い対戦が見れそうだ。
グラウンドに向かうとアーサーの考え通り、自分のクラスメイトと対決相手のクラスメイトとが集まって大袈裟に一喜一憂しているようだった。少し離れた所にある木の幹に寄りかかりながらそれを見下ろす。歓声や荒いヤジが飛び交うのを眺めながら、プレイ中の選手を目で追った。
アイスの効果か、アーサーのクラスは見事に決勝戦の切符を手に入れた。そして同じ切符を手にいれたのは、体格差や経験を見事に破った一年生だ。
(兄弟対決とか面白れぇじゃねーか)
なんと対戦相手はルートヴィッヒのいる一年生チームである。現役のサッカー部員がいるので強いのは分かるが、フェリシアーノや菊の腕がいいのも大きな所であろう。
(チームの特性がよく分かるな)
一年生チームは技術もさることながら連帯感が強いのに対して、三年生チームは殆どスタンドプレーである。それぞれが勝手に動く連帯感の無さをカバーしているのは技術と体力だろうか。
総合的な戦力はどうやら互角らしく、膠着状態が続く。後半戦も残り僅かとなった所で、ギルベルトがボールを持ったままサイドを上がりはじめた。これで決められればいいんだがと見守っていると、ボール目掛けて何人かが突っ込んで来た。どうやら自分でかわすつもりらしいギルベルトは悪戦苦闘しながらなんとか死守している。
パスをまわせばいいのに、と思っていると、案の定アントーニョから「お前一人でボールキープすんなやー!」と苦情が上がった。当然だな、と醒めた目で見下ろす。チームプレイなのだから、人材を活かせよと思う。粘るのは悪い事ではないが、上手いタイミングでパスを回すのも基本的な戦術の一つだろう。自分の活躍にこだわって勝ちの目を殺すなんてもったいなさ過ぎる。しかし、仲間内からブーイングが上がったことで、流石にパスを回すだろうと思っていた所を狙って、ギルベルトがトラップを仕掛けた。
「あ」
抜いてしまった。
恐らくアントーニョが声を上げたことでパスが出ると思った相手方の油断のせいだろう。
(おお?)
ギルベルトがそのまま突っ込むと、キーパーであるルートヴィッヒが前に出て来た。どうやら一対一の対決をするらしい。
アーサーは少しばかり身を乗り出すと、固唾を飲んで行方を見守る。まだアントーニョが上がりきっていない。どうするのかと思っていると、ここぞとばかり個人技を披露してくれた。
突っ込んで来た勢いとは裏腹に、柔らかい放物線を描いてボールが頭上を舞う。身軽になったギルベルトがルートヴィッヒの脇をすり抜けて、落下してきたボールを思いっきり蹴りつけた。
悲喜こもごもな声が上がる。
目を瞠ってそれを見ていると、特有の高笑いをしたギルベルトがふとアーサーを見つめて笑った―――ような気がした。
頬が紅潮する。
なんだ今のは。
心臓が五月蠅く鼓動を刻む。
アーサーはぎゅっと唇を噛んでぷいとそっぽを向いた。皆よりも離れていて良かったと安堵する。いきなり頬を赤くするなんておかしい。
(今のはクラスメイトに向けてだろ)
と言い聞かせて踵を返す。
高笑いをしているギルベルトは確実にバカっぽい。でも、最後に見せた微笑は思わずこちらの心臓を高鳴らせてしまうくらいの威力を持っていた。もしかしたらアーサーの他にもドキっとした者がいるかもしれない。
(何バカなこと考えてんだよ!)
生徒会室に向かいながら、スタンドプレーを責めるべきだろ、と不甲斐ない自分に文句をつける。
一瞬でもときめいた自分を恥じるべきだ。だが、自分の事を好きだという男が活躍して誇るようにこちらを微笑めば、心が躍ってしまってもおかしくないだろう。
(ああ、くそっ…あいつ)
決勝戦くらい見に来いよ、という彼の弁からするに、もしかしたらいいところを見せてやろうと思ったのかもしれない。そんな個人的な感情でゲームをつまらなくするつもりか、と非難する一方で、心臓の高鳴りがいっかな収まらないのを認めないわけにはいかない。
落ち着く為に深く呼吸をしながら歩いていると、裏口近くに担任を発見した。嫌な予感がして気配を消して通り過ぎようとしたが、残念ながら捕まってしまう。
(なんで俺が便利屋よろしくこんなことしなきゃなんねーんだよ)
今度はアイスを押しつけられてアーサーは溜息を吐く。用事があると言われてしまえば自分のクラスの事だ、引き受けざるをえない。
どうやら決勝に進出した時点で購入されたクラスメイト全員のアイスを抱えて、今歩いてきたばかりの道を辿る。今は顔を合わせたくないのに、とアーサーは担任に向けて恨みごとを呟いた。
到着するまでに平常心を取り戻さなければと、何度も深く息をする。心を落ちつけて近寄ると、クラスメイトが騒いでいる。どうやら先程の得点のお陰で勝ったらしい。ギルベルトはよくやったと褒められたり、どつかれたりしている。それに高笑いしつつ威張っているのをやっぱりバカだなーと思う。きっとさっきのは勘違いか何かに違いない。呆れながら歩み寄ると、ギルベルトがぱっとこちらを見つけて走り寄って来た。
「おっ、優勝のご褒美が来たぜー!」
「お前スタンドプレー…!!!!」
がばっと抱きついてきて、慌てる間に頬にキスを受けてしまった。アーサーがゆでダコみたいになって口をぱくぱくと開閉していると、ギルベルトはそんなアーサーを気にも留めず、アイスの入ったケースを奪い取って行ってしまった。
「なんやお前、相当ハッピーな気分なんやなぁ。でもあの鬼の会長にそんな事にして今日でお前の姿は見おさめやろな」
周りからからかわれて、ギルベルトが「お前らにも熱いベーゼをしてやろうか」と高笑いしている。クラスメイトに「いるか!」と蹴られたり罵倒されながらアイスを配り終わる頃には、今の一件はギルベルトの悪ノリという事で片付けられたらしい。
(このスットコ馬鹿!)
アーサーは眉間に皺を寄せて、反撃するチャンスを失ってしまった事に心の中で悪態をつく。既に、口にアイスを咥えたギルベルトがアーサーの名前を呼んだ。
「お前の!」
アイスを持った手が伸ばされて仕方なく歩きだす。そのまま地面に座って談笑をしている姿を睨みつけてから、アーサーは少し離れた場所に移動すると木陰に身を預けてアイスのパッケージを開ける。購入してから時間が経っているアイスはきっと生徒会室までもたない。それにまだ頬が熱い。でもきっとこのアイスが熱を冷ましてくれるだろう。
そう判断して棒アイスの柔らかくなった部分を舐め上げた。


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