■【俺様模様】■
02
寮の玄関でフランシスと別れるとギルベルトはアーサーを連れて部屋に戻った。部屋の簡単な説明をする。 「まずは、だな」 内開きの扉の前は半畳の玄関。シューズストッカーがあり、伝言や予定を書き込めるボードがある。右手には2畳ほどの簡易キッチンがあって、小さな流しと電気コンロ、ミニ冷蔵庫が一台。お茶を淹れたり、インスタントラーメンくらいなら作れるようになっている。工夫すればそれ以上も可能だ。フランシスはよく何やら作っていた。 そしてその奥はユニットバス。半畳分の浴槽がついている。 キッチンの引き戸を開けると、3畳ほどの共同スペースがある。バスルーム側にトイレがあって、玄関側には本棚を兼ねたテレビボードと小さいけれどテレビが備えつけられていた。それから真ん中にローテーブルとミニソファーだ。食堂で食いっぱぐれた時などに軽食ぐらいは取れる程のスペースは、ホモを蔓延させる為の仕掛けにしか見えない。男同士が肩を寄せあって座れるせるミニソファーを置くなんて学園側は何を考えているのだろうか。置くのならばクッション2つくらいでいいとギルベルトは思う。それなら適当に距離を取れるではないか。 そんな事を思いながら説明を続ける。 共同スペースはそこまでだったので、残るはプライベートスペースだ。 「個室はここだな」 学生にはリビングの奥。2畳ずつの寝室が与えられていた。 ハイベッドもどきの下が収納。洋服などはここに入れるようになていて、その隣には机がついている。 (個室狭いよなぁ…) 今までは気軽が一人暮らしだったので、不便には思わなかったけれど、同室になるヤツが出来て改めて思った感想を心の中で呟く。 変に共同スペースを作られるよりは、個室を広くして欲しかった。 ギルベルトは案内し終わると、使っていない左手の個室に誘導した。 「お前こっちな。右は俺様が去年から使っててよ。別に今更変われとか言わねーだろ?」 構わない、と頷くアーサーが窓に向かうのを見て 「あ、お前が来るって知ってたら部屋ぐらいは換気してやっても良かったんだけどよー」 と告げたらアーサーが呆れた顔で振り返った。 「いや、換気よりもそこ片付けろよ。いくら一人つっても酷ぇぞ…」 げんなりした顔でギルベルトの後ろを見られて反射的に「悪い」と謝ってしまった。家では弟であるルートヴィッヒが五月蝿いし、寮に移っても皆、それなりに綺麗にしている。やはり家族でも無い者との共同生活になると、好き勝手に出来ないのだろう。 しかしギルベルトは一人楽しすぎる一人暮らしで、自分でも汚しているのが分かっているから、素直に謝った。いくら凶暴で無愛想なルームメイトだとしても、ちょっとした罪悪感は湧く。可愛い服を来た子を連れ込んでいると思ったら「さっき知ったんだから仕方ねぇだろ」などという反論は口の中で消えてしまうのだから不思議なものだ。 ギルベルトの謝罪にアーサーはジト目で惨状を見渡した。溜息をついて口を開く。 「…ったく。まだ夕食までは時間があるだろ。掃除するぞ、掃除」 「今からかよ」 帽子と上着を脱いで腕捲りをするアーサーに面倒臭そうに問うと「当たり前だろ」とばっさりやられた。 「明日だって休みなんだし案内は後でいいじゃねーか。それよりもまたこの部屋に帰って来なきゃいけねーんだと思うとウンザリするぜ。お前の部屋の事までとやかくはいわねーけど、リビングは共同スペースなんだからな」 物凄く正論である。 「…じゃあ、掃除道具借りて来るから、その辺片しとけよ」 「OK」 床に落ちているものから片付け始めたアーサーを置いて、掃除用具や洗濯機が置いてある共同スペースに向かう。洗濯は基本的には専用の袋に入れて所定の場所に置けば帰りにはドアノブに引っかかっているのだけれど、一階のホールには一応3台ほどの洗濯機が備えつけてあった。道理で入学金やその他諸々が高い筈である。 ギルベルトはハンディータイプの掃除機と、バケツの中に雑巾やら洗剤やらを突っ込むと廊下を戻る。部屋に入ると両目を吊り上げて顔を真っ赤にしたアーサーに鋭い声でピシャリと叱られた。 「お前信じらんねぇ!何考えてんだよ!いくら一人部屋になってたって言ってもリビングには他の奴らくらい入れるだろ!」 道具を持って来た人間に対して有難うも無く説教かよとギルベルトはアーサーにじと目を向けた。 「…何の話だよ…」 ルームメイトが増えるのは、ちょっと息苦しいかもしれないけど楽しそうだと思っていた頃の自分が恨めしい。いや、せめてもう少し口喧しく無い人物だったらマシだったのだ。 (ルッツみてぇ…) 頭が良くて、口喧しい。まだ見た目がこちらの方が可愛いらしいのは救いだが、その分手が早いのではギルベルトのストレスはプラマイ0、と言った所か。 ギルベルトがウンザリしていると、アーサーがずいっとゴミ箱を突き出した。不振げにそれを見やって、ぎょっとした。即座にゴミ箱を奪い取る。 「いやっ!これはだな!!」 ピンク色した使用済みの薄いゴム。いざという時もたもたしてたら格好悪いよな、とかそういう理由で、装置する練習をしたついでに括る練習までやったヤツだ。ギルベルトの顔にも血が登った。耳まで熱い。 「お前の性癖は知らねーけど、ここに連れ込んでしたりするなよ!したら殺すぞ!あと半径1メートル以内に近寄るな!」 「違うって!誤解だ!一人楽しくやっただけだって!そこのAV見たら分かるだろ!俺様男には興味無い!お前だって女だと思ったから声かけたんだろ!」 じとっと探るような目で見られて、何で男相手にこんな事を弁解しているんだろうと虚しくなった。なんか泣きたい。 ≪back SerialNovel new≫ TOP |