■【俺様模様】■ 03

アーサーの誤解を(一応)解いて、掃除を終えると、夕食の時間が差し迫っていた。道具を片付けて説明を交えつつ食堂へ向かう。
「ん?」
パーティーの後、実家に帰った筈のルートヴィッヒがフェリシアーノと一緒にいた。
「兄貴にカークランドか」
「何だルッツ、こいつ知ってんのか」
「有名だぞ」
ルートヴィッヒは当たり前だという顔でチラリとアーサーに視線をやる。有名だというわりにギルベルトはアーサーの名前を聞いた覚えすらない。
「ふーん。フェリシアーノちゃんも知ってるのか?」
「えっ?俺は知らなかったよ〜!でも俺は入試の時会ったんだ!あの時は消しゴム有難う!」
ニコッと気持ちのいい笑顔を浮かべるフェリシアーノに、アーサーはぷいっとそっぽを向いて目の下を赤くしながら「…忘れたな」などと嘯いている。薄々思ってはいたが、どうやら素直とは無縁の性格らしい。
「そう?でも助かったから有難ね!あ、良かったら一緒に食べようよ!」
フェリシアーノの天使の笑顔に癒やされると、ギルベルトは「そうだな!」と頷いた。留年して良かった事と言えば、フェリシアーノが同じ学年にいる事くらいだ。一緒のクラスになれますようにと神サマにお願いする。因みに口喧しいルートヴィッヒとアーサーは一緒で無くていい。
食事を取りに行って戻って来ると、アーサーはルートヴィッヒの前に、ギルベルトはアーサーの隣、フェリシアーノの前に腰を下ろした。
「なあ、もうスピーチの原稿上げたか?」
「ああ。カークランドはどうだ?」
「終わってるさ、当たり前だろ?」
(当たり前とか、そんな糞真面目で人生つまらなくねーのかね…)
ギルベルトが真面目二人組をうんざりと眺める。目の前のフェリシアーノはニコニコとマイナスイオンを出しているので、フェリシアーノの顔に視線をシフトさせてオムライスにフォークを入れた。
「終わってるなら明日にでも原稿見せて貰えねぇかな。被ってると困るだろ」
「…ふむ…明日はフェリシアーノと買い物に行く約束をしているのだが…」
「ええっ!明日中止になっちゃうの?!」
フェリシアーノが椅子に座ったまま器用にびょん!と飛び跳ねた。ギルベルトが「じゃあ俺が付き合うぜ!」とすかさず誘いをかけたら「ううんいいよー」と断られてしまった。
(流石フェリシアーノちゃん奥ゆかしいぜ!)
別に迷惑だとか思って無いんだけどな…などと思っていると、ルートヴィッヒとアーサーは此方を観察してからお互い向き直った。
「今夜ではダメか?」
「いや?早い方がいいから今夜の方が嬉しいけどな。でも点呼は9時半じゃなかったっか?…まぁダブってなきゃすぐ終わるし、とりあえず合わせるか」
「…そうだな。では食べ終わったら談話室かどちらかの部屋で打ち合わせとしよう。俺達は12号室だが、お前は確かー…」
「127」
「「えっ?!」」
フェリシアーノとルートヴィッヒが驚いて声を上げたので、ギルベルトは皿をつついていたフォークをぷらぷらさせながら口を開く。
「コイツ、俺様と同室になる事になったんだよ。ああ、快適一人暮らしよサヨウナラだぜ」
「…兄貴、口に物を入れたまま喋るんでは無い。行儀が悪いぞ」
『お前は俺様の母親か』と言いかけたが、目の前のフェリシアーノが身をずらしたので、口の中の物を飲み下して「悪ぃ悪ぃ」と謝った。確かにギルベルトとてアントーニョが米粒を飛ばしながら喋ったら普通に避ける。別に嫌われているから避けられたのではないと思いたい。
「でも、ルームメイトっていいよね!二人だと寂しくないし、せっかくなんだから楽しまないと!俺、賑やかなの好きだし、ルートと一緒になれてすげぇ楽しいんだー」
「…フェリシアーノ…」
顔を赤くして咳払いをしているルートヴィッヒを可愛いヤツだなと思いつつも、羨ましい思いが先に立つ。ギルベルトだって同室で嬉しいと言ってくれる可愛い子ちゃんの方がいい。
「そんなもんか?俺は一人の方が落ちつくけどな。まぁ百歩譲って騒がしく無いヤツ」
当て擦られた気がして口元を皮肉っぽく吊りあげる。
「ほー。じゃあルッツと同室になれば良かったなぁ?お前ら生活スタイル似てそうだし」
「まぁ、便利ではありそうだよな。総代と副総代だから打ち合わせし易いだろうし」
「ええー!アーサーもルートと同室になりたいの?!俺困るよ!靴紐結んで貰え無いじゃん!」
「「…………」」
ギルベルトとアーサーは無言でルートヴィッヒの顔を見る。ルートヴィッヒはもごもごと「いや…」とか「あの…」とか赤い顔で言っている。
(…甘やかし過ぎだろ…つか、俺様もそれくらい甘やかしてくれよ)
フェリシアーノほどとは言わないが、俺様だってそれなりに可愛いだろ、などと寝ぼけた事を心の中で呟いていると、隣のアーサーが「あー」と声を上げた。
「…まぁ、滅多な事でもなきゃ最終学年まで同室になれっから心配すんな…。でも靴紐くらい自分で結べるようになれよ?」
「そうなんだ、良かった〜!靴紐は頑張りますであります!」
ピッと敬礼してみせるフェリシアーノにアーサーは苦笑している。
(おいおい俺様に対する態度と全く違うじゃねーか…)
まあ、皆大好きフェリシアーノちゃんだから仕方ねーか、と納得しながら最後の一匙を口に収めた。
「では、打ち合わせは俺様の部屋か談話室でいいだろうか?」
「おいルッツ、なんでいきなり俺様の部屋が除外されてんだよ」
別に来て欲しいワケでは無いが、あからさまに避けられるとそれはそれで何やら気になるものである。
ギルベルトが不満げに唇を尖らせると、まだ一年の癖に厳つい顔をした弟は「あの汚れた部屋に足を踏み入れたく無い」ときっぱり言い放った。
「掃除したっつーの!」
「ついさっきまで汚部屋だったがな」
余計な情報をくっつけてくれたアーサーを一睨みするが、アーサーはどこ吹く風で、オムライスをゆっくり咀嚼している。
「アーサー!」
「なっ、何だよ」
そんな中、ルートヴィッヒが強い口調でアーサーを呼んだ。その顔を見やるとかなり真剣な表情をしている。そして今にも手を握らんばかりの情熱的な声で、
「兄貴を宜しく頼む…!」
と切羽詰まったように言われたら、俺様どういうリアクション取ればいいんだよ、とギルベルトは溜め息を吐いた。


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