■【俺様模様】■
04
時間ギリギリに戻って来たアーサーと点呼を済ませると、ギルベルトは常温のビールのプルトップを開けた。 「あー、まじビールうめぇ」 同居人が出来たので、全て今まで通りとは行かないだろうが、リビングでビールを飲むくらいは勘弁して貰いたい。これは命の水だとギルベルトは常々思っている。 アーサーが何を言ってもこれだけは譲ら無えぞ、と覚悟を決めていたギルベルトだったが、風呂から上がったアーサーは意外な事に「あ、俺にもちょっと寄越せ」と言って勝手にギルベルトの飲みさしのビールを強奪した。 「俺様の分が減るだろー!新しいの開けろよ」 「いいのか?」 「まだあるからな。補充してくれときゃ構わねーよ」 でもその童顔で売ってくれるもんか、と問えば、アーサーは「んなもん」と流しの下からビールの缶を持って来ながら笑った。 「『お使いで…』って上目で言っときゃ楽勝だろ」 何かえげつない。 そんな風に感じている間に、アーサーはギルベルトが占拠しているソファーの横の床にペタリと腰を下ろした。テーブルに肘を付きながらダラダラとテレビを見ている。 (しっかし、別にお堅いヤツってだけじゃねーんだな) もっとガリ勉で四六時中机に向かい、ビールを飲むギルベルトにあれこれ口煩く言うのでは無いかと思っていたのだが、それなりに普通の高校生だったようだ。 そういえば、AVの事についても特にお小言をもらった記憶は無い。 ちょっと部屋を綺麗にして、抜くのは部屋でするっていう普通の事をしていれば、特に問題の無いルームメイトかもしれないとホッと肩を撫で下ろすと、俄かに機嫌が良くなってギルベルトは流しに向かい追加のビールとスナック菓子を両手に抱えた。 「まあ折角同室になったんだし歓迎会しよーぜ歓迎会!」 アーサーは驚いた顔をした後「お前なぁ…」と苦笑した。どうやらただ騒ぎたいだけと言う事はお見通しらしい。 「後、俺様の快気祝い!」 今日のパーティーはすっかりハブられていたのでそう付け加えれば、アーサーは旨そうにビールを飲みながら「どっか悪かったのか?」と聞いて来た。ギルベルトは待ってましたとばかりに口を開く。 「そうなんだよ!俺様この間まで肋骨折って入院してたんだぜ!欠点取って留年っつたけど、本当はこの事故のせいだったんだからな!マジあそこにバナナの皮捨てたヤツ許さねぇ!」 一息に積年のほにゃららを告げると、アーサーはぽかんとした顔をした後吹き出した。 「お前まさかバナナの皮踏んづけて転んだのかよ…!ははっ!あり得ねぇ…!」 ケタケタと無邪気に笑う顔があまりに可愛いかったので、「あ、これお前の奢りな?」と言われたのにうっかり頷いてしまった。ギルベルトは、歓迎会は兎も角も何で自分の快気祝いに人に奢らなきゃなんねーんだと後で気がついてちょっと落ち込んだ。 ≪back SerialNovel new≫ TOP |