■【俺様模様】■ 05


酒は飲めども飲まれるな。
楽しい酒盛りは、ビール4本目に突入した辺りからおかしな事になった。
先程まで穏やかに、時折ケタケタと笑いながらアレコレと話していたアーサーが、突然泣き始めた。
(…こいつ泣き上戸かよ…)
「アルの馬鹿ぁ…」
「あー、はいはいそうだなー」
折角ほろ酔いで気持ちよくなっていたのに、すっかり酔いが冷めてしまった。台無しである。
(うぜー…)
と言えば、余計泣かれて詰られたので、心の中だけに留めて置いたが、どうやら顔に出ていたらしい。大きな目に涙を溜めてつっかかってくる。
「…どーせうざいって思ってんだろ、お前なんか嫌いだ馬鹿ぁ…」
うざい。途方も無くうざい。わかってんなら、今すぐ泣きやんで寝て下さいと言いたいが、酔っ払いに正論は通じない。しかし言わざるを得ない。
「あー、あー、うざくねーから酒飲もうとするの止めて早く寝ろー」
棒読みで言うと押さえつけたアーサーがギルベルトの下でジタバタと暴れる。飲ませて早々に潰す選択もあったが、貴重な酒をこれ以上ただ飲みさせるのも嫌だ。
よって、酒を取りに行こうとするアーサーを取り押さえているのだが、何ていうか、体勢がヤバくね?と思う。
いつの間にか、アーサーをソファーに押し倒してその上に乗ってしまっている。その上、殴って来ようとする両腕を押さえつけてしまえば、今から襲います!…と言うような微妙な具合になってしまった。
「ばかぁ」
しかしこの甘ったるい罵倒はどうにかならないものだろうか。グチャグチャな泣き顔でなんとかセーブが効いているものの、なんかちょっとヤバい気分にさせられる。
(…いやいや、このどーしようもねー泣き顔が可愛いとか思って無えから!)
ずずっと洟を啜る音が重くなって来たのと、抵抗が弱まって来たのを汲んで、両手を解放してティッシュを渡してやると勢い良く洟をかんだ。
(ああ、うん、大丈夫だ。これなら百年の恋も醒めるって…)
いや、別に恋して無いけど。
自分自身に突っ込んで、特に殴ってくるでも無い真下のアーサーに視線を落とすと、アーサーがじぃっと此方を見ていた。
「…な…なんだよ?」
どんぐりのような大きなまるい瞳がぱっちりと開いてギルベルトを凝縮している。
「…お前結構いいヤツだな…」
すんっと小さく洟を啜る姿は何かちょっと疚しい気持ちを掻き立てる。
「い…いや…まぁ、俺様は最高の、男の中の男だからな!」
なんかもやもやした気持ちを吹き飛ばすようにケセセと笑うと、アーサーの腕がギルベルトを抱き寄せて、思わず固まる。
「あったかい」
そりゃまだ4月だし、空調入れているとはいえ、まあ他人の体温は暖かいと感じる季節だろう。
(おおおおい!これどうしろっつーんだよ!俺様そっちの気はねーぞ!)
心の中で叫んだが、生憎心臓は猛加速している。
『しよ』
とか言われたらうっかり手を出してしまいそうな雰囲気だ。大分酔いが醒めいるとはいえ、ギルベルトにだって酒は入っている。
「…アルフレッドのばかぁ」
(…そこで他の男の名前呼ぶんじゃねーよ)
妙に気疲れしたギルベルトにくっついたアーサーが微かに寝息を漏らして、長い溜め息を落とした。

(もー、こいつとは酒飲まねぇ…飲んだとしても二本までだ)


【ルームメイト】



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