|
『ハピバこーる』（アベミハ） 阿部誕生日記念。 １２月１１日。 それが、オレ、阿部隆也の誕生日である。 そして、野球界では夫婦、と称されるバッテリー間の三橋は。 今日ものんびりとみかんを剥いていた。 『ハピバこーる』 「・・・・」 「・・・・♪」 基礎訓練が終わった後、メンバー達はそれぞれのトレーニングメニューに移る。 人数が少ないので、紅白戦なんて出来るワケも無く。 まあ、たまには奇抜なメニューをやったりするのだが、本日オレの誕生日は平凡でいつもと変わらないトレーニングメニューだった。 「おい」 「Σ！？」 いそいそと本日のデザート、みかんを剥いている三橋がビクリ、と肩を震わせ、みかんとオレの顔を見比べた。 「あ、ぅ・・・え、と。みかん・・・？」 ・ ・・。誰もそんなコト言ってねえ。 そんなコトを思いながら「違う」ときっぱり言ってやると、ヤツは「？」を浮かべて首を傾げた。 「・・・あのな」 「ぅん？」 「・・・」 「・・・」 「・・・」 「・・・」 口を開けようと思って、開けないで。 言おうと思っていた言葉を、飲みこんで休憩中だったベンチからざっと腰を離す。 「冬場は陽が暮れんのが早いんだ。さっさと練習再会させんぞ」 プロテクターをキチンとつけなおし、定位置につく阿部の姿を見て、三橋はむいたばっかりのみかんと、阿部を交互に見比べた。 どうやら、早く食べたいらしい、みかん。 「おい」 むっとした調子で、呼びかけると。びくっと竦んでからダッとみかんを置いて、走り寄って来た。 「練習、はゃく、ぉわらせ、ます」 別に早く終わらせたいワケでは、無いが。暗くなっての失投やら何やらの為に怪我をするのは、バカらしい。 しかも、今日はなんたって、自分の誕生日だ。 と、言っても。 実はさっき思い出したのだけれど。 投げる三橋を少し上の空で見ながら、阿部は思った。 （三橋は知ってんのかな。） 自分が今日誕生日なのを。 そして、知っていてくれたら、嬉しいな、と思う。 三橋は、ぐずぐずして、うじうじしていて、はっきり言って腹の立つ相手だが。それでも、自分は三橋のことが好きだし、三橋も自分の事を好きだと、言った。 誕生日なんて、その日が来たからといって、何が変わるわけでもないし、そんな重要なイベントだとも思った事は無いが。 それでも好意を持ってる相手が祝ってくれたら、嬉しい。 「ぉなか、すいた、ね」 帰り道、三橋の一言でふかふかの肉まんを買うことにして、行儀は悪いが、二人して、食べ歩きをしながら、家路へと向かう。 「三橋」 「Σむぐ！？・・・にくまん・・・」 三橋は一つ多めに買ったにくまんと、もう一つを食べ終わってしまった俺とを交互に見比べながら、たらり、と涎を零しそうになった。 「肉まんじゃ、ねえ」 っていうか。 （オレと、食いモンと、どっちが大切なんだよ！） 食い物だったら、腹が立つ。 自分だったらいいな♪な問題じゃ、無い。 そうでなければ、はっきり言って許せない。 というか、そんな事思う時点で、情けない。 しかし、情けなくとも、聞いてしまうのが、人情だろう？ 「お前、オレと食い物と、どっちが大切なんだ？」 「・・・」 きょとん、とした三橋に、威圧を加える。 「Σ！・・・あ、の」 「何」 「あ・・・・。あべ、くん」 「・・・」 「阿部くん、が・・・好きだョ」 「Σ///」 どちらが大切なのかと聞いただけなのに、微妙にぼけた返答が返って来て、赤面しそうになりそうなのを、防ぐ。 「お前、今日なんの日だか知ってるか。」 どう考えても、脈略も無い（事も無いと思うが）質問に再び三橋は、きょとん、として首を傾げた。 「分かんなぃ。みかんの日とかじゃ、・・・なぃよね？」 （なんだよ、みかんの日って） まあ、世の中には珍妙な、世間に知られてもいない『なんとかの日』が数多く設定されていたりするから、みかんの日があったって、おかしくないのだけれども。 （今の会話した後に何で食いモンの方が先に来るんだよ・・・） 「違う」 思わず半眼になるのを止めることが出来ずに、隣を歩く三橋の顔をジロリとねめつける。 「うまれた、日」 「産まれ・・？にくまんの？」 （だから、食べ物から離れろっつーの！） あくまで食べ物から離れない三橋に焦れて、阿部は大きく息を吸いこんだ。 「オレ！」 「おれ？・・・・阿部くん？」 「・・・」 言ってしまった。 なんとなく情けないような、仕方が無いような。 そんな奇妙に捻じ曲がった心を宥めながら、がくっと落ちてしまった顔を上げる。 「阿部くん。今日が誕生日なんだ。」 「・・・」 そうだよ！と心の中で吐き捨てて、三橋をみると、ヤツは不意打ち狙いなんて上等な真似はできっこない（球のコントロールだけは上手いが）表情をくるり、と変化させ、ふわりと笑った。 「オメデトぅ」 「・・・・」 しかも、食べかけの肉まん付きで。 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |