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『手を繋いで（獄ツナ）』 「１０代目～」 軽やかに自分の名前を呼ぶ声に、ツナは唇の端を上げて迎え入れる。 「獄寺くん。おはよ」 いつもいつも、非常に間抜けな事をしでかして、問題を更に大きくしてくれる獄寺をツナは警戒していた筈なのに、いつの間にか心を許してあってる間柄になっていて、苦笑せざるを得ない。 「早うございます、１０代目！今日は特に寒いっすね。こんな日こそ、ホットになるために、ボンゴレの未来について熱く語り合いましょう！」 にかっ！ 最初は恐い人だとしか思っていなかった獄寺の、爽やかとは到底言い辛いアホ面を見て、ツナは「えぇ？」と言葉を濁す。 「い、いぃよう、今日は。（それに俺、ボンゴレ、継ぐ気無いし…）」 アハハ、と笑ってツナはそれより、と話題を変える。 「今日、抜き打ちの小テストがあるって噂なんだよね。・・・獄寺くんは・・・」 大丈夫？と言おうとして、ツナは口を噤んだ。 （そうだ、獄寺くん・・・。頭良かったんだよね・・・） 本当は獄寺も候補にあがっていたらしい、ボンゴレ十代目。 （獄寺くんの方が、適任だよね・・・） 「ああ、テストっすか、楽勝っすよ！」 （やっぱり・・・） 思う度に、ツナは獄寺と己の違いを認識せざるを得ない。 「・・・―――どうしたんすか、１０代目？あ、そういえば、１０代目ベンキョー苦手だって言ってましたよね！ま、それくらいでボスの資格は決まりませんからねっ！」 ニカニカニカニカ！ 獄寺の笑顔が眩しくて、ツナは曖昧にうん、と頷いた。 （何で、獄寺くんは・・・オレのこと好きだなんて言ったんだろ・・・） 自分の事を好きだと言ってくれているのは、リボーンの死ぬ気弾のせいであって、自分自身のことではないと思う。 それを思うと足取りは自然と遅くなり、獄寺と距離が開く。 最初は、好きだと言ってくれた事だけで舞いあがってたから、分からなかったけれど。 「あ、何だったら2人でベンキョしましょうか。オレ、あんま教えるの、上手くないんすけどー・・・、・・・１０代目・・・？」 いつしかピタリ、と止まってしまった歩みに、獄寺は心配そうな顔をしてツナの顔を覗きこむ。 「どうしたんスか、１０代目、お腹とか痛いんスか？」 （あ、ヤバ） ジワリ、と涙が滲んで来るのが分かって、更に顔を俯ける。 「チガー・・・」 「よ！ツナ、獄寺！」 「げ！山本っ！」 「・・・あ、オレ、先行ってるからっ」 ふらっとやって来た山本の登場に、ツナはそこからダッシュで逃げた。 「ああ！１０代目っ？！」 （・・・あー・・・結局、逃げ回っちゃったよ・・・） はあ、と溜息をついて、ブランコを小さく揺らす。 「獄寺くん、怒ってるだろーな・・・。呆れちゃったかも・・・。いや、キライになったよね・・・」 獄寺は短気だし、ボンゴレだし（意味不明）、ジメジメしたヤツは一番嫌いに決まってる。 溜息がとりとめも無く出て、しまいには涙がまたジワリと出て来る。 「誰が何だって言ってンすか？」 ガチャン。 背後から、伸びて来た手が鎖を掴んで、ツナは大きく体を縮こませた。 「ごっ！」 「待ったア！」 ガシリ！ 首根っこを掴まれて、逃げようとしてた体を止められる。 「じゅうだい・・・・、ツ・・・・綱吉さんっ！」 「・・・・・・・・？」 バタバタと暴れてた体が、思考力の低下とともに、止まる。 思わず目を丸くして、顎を上げた。 背後に立っている獄寺を見上げると、逆さに移ってる顔はうっすらと赤いように見える。 （あ、あれ？今・・・） よく考えたら振り返れば首が痛くないのを思いだして、ツナはゆっくりと振り向いた。 逆さに映っていない獄寺の顔はやっぱり赤かった。 口元を抑えている獄寺は、「好き」だと言ってくれた時のように、初々しく赤い。 「オレはっすね・・・、ちゃんと言ってくれないと、ワカンナイんすよ・・・バカだから」 獄寺は恐ろしくアホだが、バカじゃ無いだろう、とツナは逃げるのを忘れて、獄寺の顔をじっと見つめる。 「山本のヤローが、じゅ・・・綱吉、さんが、不安に思ってンじゃねぇかって言うもんだから・・・その。そうなンす、か？オレと一緒にいるのは、不安、ですか？オレ、１０代目が・・・っと、ツナさんと両思いだと分かって、舞いあがっちまって・・・」 ごめんなさい、と呟かれて、ツナは再び俯いた。 ツナと呼ばれて嬉しいのに、それ以上に獄寺が自分を好きだと言ってくれるのが、痛い。 「不安とか、そういうんじゃ、無いんだけど・・・」 「何でもいいンすよ！！何でもいってください！！オレ、なんでも直しますから！！」 意気込んで言われた言葉に、唇が小さく震えた。 「違うんだ、獄寺くん・・・。獄寺くんに文句があるんじゃなくて・・・。オレ・・・、獄寺くんに好きになってもらえるような人間じゃ無いから、それで・・・」 「は？！」 「・・・オレさ、なんかスゲー事とかしてたりするけど、獄寺くんとの最初の対決だって、全部リボーンのおかげなんだ・・・。リボーンの死ぬ気弾のせいだから、獄寺くんは、オレのこと、本当は好きじゃ無いんだよ。オレなんてー・・・！？」 パチン！ 頬を両手で挟まれるように叩かれて目を白黒させる。 「綱吉さん」 切れそうな程に鋭い視線に、ツナは生唾を飲み込む。 「そんな事いうツナさんは嫌いです」 「・・・、だろ？ほら、オレなんていつもそんな―――」 「綱吉さん！！！」 「！」 ぐい！っと顔を引っ張られて、遮られた言葉はそのまま獄寺の唇の中に吸い込まれた。 「『オレなんて』なんて言わないで下さい。オレは優しい綱吉さんは好きだけど、そういうのは、キライです。・・・ま、オレの為に言わないでくれってのは、勝手かもしれませんが。そういう風に自分の事卑下しないで欲しいッス」 「でも―――、オレ、死ぬ気弾が無いと・・・」 「そんな事は無いです。綱吉さんがいるだけで、オレは幸せッス。・・・それに、なんでリボーンさんが綱吉さんにだけ死ぬ気弾打つか分かりますか」 「え？」 「綱吉さんが、いつも、真剣に物事に取り組んでんの、誰よりも分かってるからでしょうが。俺だってボンゴレのボスの候補だったんだ。死ぬ気弾の存在くらい知ってます。その人が死ぬ気で後悔しないと死んじゃう代物を迷いもなく打てるってのは、そりゃスゲーことです。それだけでも、綱吉さんは自身持っていいんだ」 「・・・」 そんな風に考えた事はなくて、目が点になる。 「ほんとは。綱吉さんがボンゴレのボスになりたくないの、気付いてます。でも、オレは綱吉さんがボスになってくれたら、嬉しいなー・・・と。だからチョコチョコ話したりしてですね・・・」 「・・・何で？」 心底不思議そうなツナの顔に、獄寺はポリポリと頬を掻く。 「何で、オレにボスになって欲しいのかな・・・。オレ、ボスに向いてるとは思えないけど・・・」 「ボスってのは、人の上に立つ仕事です。俺みたいな短気なのは、実際向きません。綱吉さんみたいに、色んな人をちゃんと見れて、優しい人のがいいんです。ナマ言ってるヤツはオレみたいなのが、蹴散らす。そんなオレみたいなのをちゃんと抑えてくれる、そういう人がボスに必要なんです。だから、綱吉さんみたいな人がいいんですよ。・・・本当は、綱吉さんが他の人と仲良くしたりすんのは、嫌なんですけど。」 「・・・オレ、別に優しくないよ・・・臆病なだけで」 「・・・」 ツナの答えに、獄寺は小さく微笑んで、その表情にドッキリする。 「綱吉さんはそのままで、いいですよ。オレが守りますから。オレはですね、別に死ぬ気弾で強くなった綱吉さんだけが好きだってゆーワケじゃないから、それでいーんです」 「・・・」 「始めは、綱吉さんの事、名前で呼ぶのは、すげえ、恐れ多いつーか、悪いつーか。そんな感じで思ってたから、言えなかったんスけど、これだけは山本のヤローに感謝しますかね・・・。綱吉さんさっきから、名前呼ぶたびに嬉しそうだし」 「え？！」 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |