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※英ベラっぽいものと言い張る。 【 変わらないもの・変わるもの 】 「兄さん兄さん兄さん兄さん兄さんどこ？！」 世界会議が終わったのを見計らって迎えに上がったのはいいのだが、肝心の兄の姿は既に会議場に存在しなかった。 それにベラルーシは小さく舌打ちする。出掛けにリトアニアが邪魔をしなければ、会議が終わった後３０秒も兄を待たせる事など無かったのである。この怒りは次に会った時には全ての指をばっきばきにしてやっても昇華出来はしないだろう。 「兄さん兄さん兄さん、今、迎えに行きます」 カツカツと足音を響かせながら片っ端からドアを開けて行く。 「そこですかっ？！」 イタリアの華やいだ声を聞いてベラルーシは勢い良く休憩室の扉を吹っ飛ばした。イタリアが悲鳴を上げてドイツの背に隠れたがベラルーシは頓着せずにドイツの背後から少しだけ顔を出しているイタリアを睨みつけた。 「…兄さんはどこ」 「…あー…会議室を出てからは見ていないぞ」 「お前の所ではないのか、イタリア」 「ヴェっ！俺？！俺は知らないよ、ベラルーシちゃん！」 ドイツの言うことは無視をして、イタリアから視線を外さずに威圧しながら確認すると、イタリアはガタガタと震えながらも顔は愛想よく笑った。ベラルーシは彼が真実を言っているかどうか値踏みするように検分したが、どうやら嘘は言っていないように思えて嘆息を漏らす。無駄足を踏んだと眉を顰めた。 「ね、もし良かったらこの後一緒に食事…」 「もう貴様に用はない」 話の途中で拒否して踵を返す。恐怖で震えている癖によく言うと呆れた。本来ならばあまり関わりたくない国である。小五月蠅くて煩わしい。 「…どこなの、兄さん」 しかし、イタリアで無いと言うのなら兄はどこに行ったのであろうか。崇拝して敬愛する兄は暖かい場所が大好きだ。最近はイタリアと仲も良いので兄は今回の休暇をイタリアで過ごすものだと思いついたのだが… ベラルーシは今回の休暇も兄と一緒に過ごす為に色々と準備をした。兄が自国でも安らかな気分でいられるようにする為の準備だ。兄の大好きなひまわりを筆頭に暖かく穏やかに過ごせるように頑張ったのに。兄は何時もはこうしたベラルーシの努力を認めてくれて大概は一緒に過ごしてくれるのだが、それでも時々リトアニアなどをけしかけて一人でどこかに消えてしまう。 そんなに私（寒い国）は嫌いだろうか。あいつら（暖かい国）の方がいいのだろうか。 そう思うと切なく胸が痛むが、余分なものは即座に切り捨てた。持っていないものは仕方がない。 「結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚」 胸の内から溢れる思いを呪詛のように呟きながら、館内を徘徊する。折角の休暇なのだ。一緒にいたいと思って何が悪い。 ベラルーシとて国である。兄が一等大事であるが、国民が大事でないワケではない。仕事もあるし、いつでも好きな時に好きなだけ会えるわけでもない。せめて無理やり合わせた休暇の時だけでも兄を独り占めしたかった。それが出来ないのならば、やはり結婚だ。結婚してしまえば、兄の手足となっていつまでもどこまでも一緒にいられるというものだ。 「結婚結こn…ッ？！」 思考に浸り過ぎて、踊り場に出ていたことに気がつかず、思いっきり階段を踏み外した。勢いよく踏み出したので、咄嗟には体勢が整えられない。どうにか踏ん張ろうとしたが耐えられなかった。しかも具合の悪い事に目の前に人がいるでは無いか。 「だっ…なん…！」 勢い良く突進していたので、まるで襲いかかられたように感じたのだろう。目の前の人物が素早く振り返った。この対応の仕方を見ると平時しか過ごした事の無い人では無く国だろうか。ならば、思いっきりクッションにしても大事には至らないだろうと踏んだ所で抱きしめられた。 「！」 何をする、と非難の声を上げたかったが、生憎自由落下の途中でそのまま身を任せる。 「…っく」 ベラルーシを抱える相手もどうやら踏み留まる事は出来なかったらしい。突き飛ばす形になったのと相手がそれを利用して跳躍したのもあって階段を滑り落ちず、放物線を描いて直接階下に着地した。 「～～～っ」 息の詰まるような衝撃と痛みに耐えるような相手の苦悶の声を知覚した。 ガガガと耳障りな音を立てて階段を滑り落ちていた相手の鞄だろう物体も音を止める。 一瞬の静寂。 腕に込められた力が緩むのも感じて身を離す。特に殴打した場所は無さそうだ。 「…ってぇ…。…おい、大丈夫か…ベラルーシ？」 真っ先に怒鳴らなかったのは相手が女だと知っていたからだろう。しかしベラルーシだとは思っていなかったようだ。ベラルーシの顔を見て驚いたように目を見開いた。 翠の深い双眸に太い眉毛、かつての仇敵。いつも兄の邪魔をした憎い相手。 「…」 ここはなんと言うべきだろうか。 お前に助けられたのは不愉快だと言える程、今はそんなに対立もしていない。けれども素直に助かったというのも違う気がしてベラルーシは顔を顰めた。そもそも庇って貰わずとも一人で何とか出来ただろう。突き飛ばす形になったのは事実だが、こんな風に守って貰う義理もない。二人とも、それぞれが己の身を守れば良かったのだ。守ってくれだなんて頼んでない。 「…、…怪我は、ねぇか？」 ベラルーシが言葉に迷っていると僅かに嘆息したイギリスが声をかけて来たのでぶっきらぼうに「ああ」とだけ返答した。 「そうか。…ロシアか？こっちには来てねぇぞ」 「…そう」 「それにしてもあんなスピードで飛び出して来るんじゃねぇよ。危ないだろーが。立てるか？」 言いながらイギリスが埃を払いながら立ち上がってから手を差し出したが、ベラルーシはそれを一瞥して「問題ない」と無視した。地力で立ち上がろうと足を着いた瞬間、びりりと痛みが脳に駆け抜けていって、思わず息を詰める。イギリスが「…あー、足捻ったのか」と困ったように呟いて、行き場をなくした筈のをが緩やかに伸ばして来たから、ベラルーシは即座に迫って来て叩き落とした。 「…問題ないと言った」 言い切って再び足に力を入れた。片足は無事なのでそちらに重心を傾けたが痛みは強い。思わず唇を噛み締めた。 「…問題無いわけないだろうが…」 強情なと呆れた声では無かった。どちらかというと扱いに困った、というような響きだ。そう思うならばイギリスはベラルーシの元からとっとと去るべきだ。構ってくれなんて頼んでいない。 「その足で歩くなよ。…部下は？呼んで来てやるから」 「貴様の世話にはならん」 言い捨てれば大きな嘆息が聞こえた。イギリスは鞄に近寄り携帯を取り出している。 「…おい」 「なんだ」 嫌な予感がして声をかける。イギリスはアドレス帳を検索しながら返答した。 「どこにかける気だ」 「ロシアに決まってんだろ」 「止めろっ！！」 予想以上の大声だったのだろうか、イギリスがびっくりして手を止めた。 「…兄さんには連絡するな…」 「…ロシアを探してたんじゃないのか？」 「…別問題だ」 此方を窺う顔から視線を逸らすと「あ～」とイギリスが髪をかき混ぜた。 「部下は」 「………」 「ロシアに連絡入れんぞ」 「…１５分して戻らなければ勝手に帰るようにしてある」 悔しながら質問に答える。成る程、とイギリスは自分の腕時計を確認していた。 「…帰ってんだろーな」 「…」 会場についてから３０分は経っている筈だ。兄を迎えに来る時のパターンとして、素直に一緒に帰ってくれない時は追いかけっこが始まって捕獲場所が大幅に移動するか、そのまま兄について他国に渡る為、自動的に返すようにしていた。今回も部下達はベラルーシの言いつけ通り既に空港に向かっているだろう。 「…連絡はとれるか？」 しかし、まだ折り返しが出来ないという訳でも無い。ベラルーシはポケットから携帯を取り出して眉間を寄せた。液晶が壊れている。 「…踏んだり蹴ったりってヤツだな。仕方ねぇんだから騒ぐなよ」 「何…っ！」 鞄を押し付けられたと思ったら途端に体が浮いた。横抱きにされたのである。 「なっ…！」 「医務室に行くだけだから暴れんな」 「離せ！」 「あーもう！大使館に連絡するにせよ時間がかかるだろーが！大人しく運ばれとけ！これ以上暴れるとロシアに連絡すんぞ！」 脅されて言葉に詰まる。途端に大人しくなったのがバカらしかったのか、イギリスが小さく笑った。 「…殺すぞ」 物騒な声音で呟くと「違げーよ」とどことなく穏やかな声でイギリスが言った。 「馬鹿にしたんじゃない」 ジロリとした目を向けると今度は苦笑する。 「少し微笑ましかっただけだ…ってだから馬鹿にしたんじゃねーって言ってんだろーが！」 殺気を膨らませたベラルーシにイギリスが慌てる。この至近距離では攻撃はかわせまい。 「…あー、ただ。小さな頃のアメリカを思い出しただけだ」 「あのメタボ野郎と一緒にするな」 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |