七転八倒堂

「兄さん結婚結婚結婚結婚」
こんな素敵な朝のプロポーズには良い返事が貰えるに違いない。
「…相変わらずだな」
しかし現実は甘くなく、当の兄は「待ってぇえぇ！」と壁際に移動してしまったし、無粋にも他人の声がした。
「誰だ」
誰何の声を上げて声のした方を睨むとティーカップを乗せた盆を持ったイギリスが「ご挨拶だな」と近寄って来る。
何故イギリスがここに？
思ってから見知らぬ部屋である事に気付く。辺りを静かに観察していると、サイドテーブルに盆を置いたイギリスの手が額に触れた。
「熱はもう下がったみたいだな。捻挫の方はどうだ？」
言われて昨日の事を思い出した。
「…大丈夫だ」
「そうか。そりゃ良かったな。吹雪も止んだし、空港も再開したぞ」
肩に上着が掛けられて紅茶の入ったティーカップが差し出される。それを大人しく受け取って喉を潤した。
「………」
「ロシア式じゃねぇけどな」
言ってイギリスが離れる感じがした。それを目で追うと口をぽかんと開けた兄の姿が目に入る。
「どうした、兄さん」
「ぇえぇぇえぇ」
「ロシア？」
「ちょっとちょっとちょっとイギリスくん、やっぱりベラルーシに何かしたんじゃないの？！」
「だから何もしてねぇってさっきから言っただろーが！」
「…そういえばどうして兄さんがここにいるんだ。お前…」
「違ぇよ！こいつが勝手に押し掛けて来たんだよ！！リトアニアから戻って来てないって連絡を受けたって言って！」
「そうなのですか」
「え？あ、うん。そぉなんだ。ベラルーシは強いからイギリスくんが悪巧みしても大丈夫だとは思ったんだけど、心配になって…。大丈夫？本当に何かされてない？」
「兄さん…」
心配そうな兄の顔にぽかりと心が暖かくなる。
「やはり兄さん、結婚結婚結婚結婚結婚結婚」
「どーしてそうなるのー！」
思わずベッドを抜け出して結婚を迫ろうとした所で何者かに邪魔をされた。何者かなんてこの部屋に他人は一人しかいない。イギリスだ。
「そう睨むんじゃねーよ。お前病み上がりなんだから、無理すんな。プロポーズなら後でいくらでも出来んだろ？」
「………」
そう言われて見ればそれもそうだ。きっと今回の休暇は一緒にいてくれるだろうし、一応こうなってしまった敗因も覚えている。兄さんをこれ以上悲しませるのは本位では無い。
「いい子だ」
頭をくしゃりと撫でられて「うるさい」と返す。
ベッドにきちんと腰を落ち着かせた所で兄が「イギリスくん！」と叫んだ。
「今回の休暇はここで過ごすよイギリスくん！！」
「はぁ？」
「ベラルーシの体調も心配だし、移動させるのなんて負担だよね！それにイギリスくん家の温室はとても綺麗だって聞いたし、今回の休暇は他国で過ごそうと思ってたんだ！いいよね！」
譲歩なんてサービスロシアには無いよ！と兄が一息で言いきった。
こんなに生き生きしている兄の姿も久しぶりで、ベラルーシはイギリスもロシアの一部になればいいのに、と思った。イギリス一国でもれなく諸処に点在している連邦諸国もついて来るのがいい。
「…ったく、しょーがねぇなぁ…。べ、別にお前らの為じゃなくて病み上がりの病人を叩き出したとか紳士にあるまじき行為をしたくない俺の為であってお前らの為じゃ無いんだからな！」
こちらも一息に言いきったイギリスの口上について、ベラルーシは考えた。

他人の為でなく、自分の為にする事ならば、もしかしたらずっと傍にいてくれるのでは無いかと。

それはなんだかとても甘美な夢に思えて、
ベラルーシは少しだけ唇の端を緩ませた。

ＥＮＤ

色んな事が私のイメージですので、かなり適当な事を言ってます。すみません。
唯一事実だと思われるのがベラルーシの大使館は露っ様が兼任しているという事くらいでしょうか。多分。

そんなベラルーシ可愛いよベラルーシというお話でした。
お兄ちゃんなカッコいい感じのイギリスも好きで、シベリア兄妹は何気にイギリスさんと相性良いだろうなぁ、と。
『お兄ちゃん』である事を理解したら、ベラルーシさんの態度ってちょっと軟化しそうな気がするんですよね。

※↓はちょっと露英入ってるっぽいです。
おまけの露さま視点のお話。

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