七転八倒堂

アーサーは自分の手札を頭の中に描きながらロッドを奮った。このパーティの中で戦闘中の回復などの主な補助役は水魔法の使えるアーサーと戦いに参加しないフェリシアーノだ。敏捷性の早いフェリシアーノだが、彼の敏捷性は逃げ足という一点に尽きるので、アイテムの行使が早いワケではない。だから同じ水属性を操るギルベルトを蘇生させないように気をつけながらギルベルトを皮切りにアーサーはかつての仲間を次々と沈めていった。
「アーサーくんすごぉい」
アーサーがフェリシアーノ以外全員を昏倒させてぜいぜいと肩で息をしているとパチパチと呑気そうな台詞と共にイヴァンが手を叩いてそう言った。
「…お前、なぁ…」
今にも膝をついてしまいそうなアーサーに、イヴァンはにこりと微笑んでアーサーに近付いた。
「大人になってから卵与えられたのに、ここまで出来ちゃうんだ」
イヴァンが周りを見回すと、そこには壁に凭れて震えるだけのフェリシアーノが目に入った。いつもは朗らかに笑っているフェリシアーノの瞳は開かれて、大きく涙を溜めている。
イヴァンは笑って一歩踏みだした。
「ひっ！」
「おい、イヴァン」
「どうしたの？アーサーくん」
一度まともに交渉したからか、アーサーの呼びかけにイヴァンが素直に立ち止まる。アーサーはそれに苦笑すると、疲れた体に鞭を打って背筋を伸ばして口を開いた。
「フェリシアーノ殺すのはとりあえずやめとけ」
「えー？」
不満そうな声を上げるイヴァンに対して、びっくりしたようなフェリシアーノの瞳が向けられたのに、アーサーはシニカルに笑って見せた。
「別にこのヘッポコ勇者さまを庇ったわけじゃねぇよ。―…ただ、この卵とやら、マジでヤバイぞ…。今も何か凄い勢いで体ん中食い荒らされてる感じがする…」
「んー。それはそうかもね。普通はまだ基本の出来ていない小さい子に入れるんだから。卵がゆっくり中で孵化して、幼虫から成虫になるまでじっくりその子の体に合わせるのに、アーサーくんは完成してしまった大人の体に入れちゃったんだから、卵はいきなり成長するよ。今もよく立っていられるよねって感じだよ」
関心したようにうんうん頷いて解説をしてくれるイヴァンに、アーサーは苦笑を一つ漏らして回復の薬を口にした。それでようやく膝をつかないでいられるくらいの体力が回復してほっと息を漏らしながら醒めた目でフェリシアーノを見つめた。
アーサーが弱っているのを目の前で見ていながら、攻撃魔法一つ仕掛けてくるワケではない勇者さまを斜めに見下ろす。
「コイツなぁ…。ここまで卵の影響力が酷くなけりゃここで殺っても構わねーんだけど…、仮にコイツ殺して他に勇者になれる人間っているのかよって感じすんだよな…」
「ほんとー？」
「…今お前が俺に『よく立ってられるな』って言ったんじゃねーか…。これでも世界一の魔法使いだからな。俺がこの体たらくなのに他に人族でコレに耐えられる人間いるのかよ」
「んー」
「今更小さい子に与えてソイツがでかくなるまで…ってそれで間に合うのかよ？」
「んー。微妙」
「だったら、コイツじゃなきゃ、勇者になれそうなのはここで倒れてる奴らのどれかが一番有力候補って気がするけど、その辺どうなんだよ」
「う～ん。そうなんだよねぇ。現時点で一番魔力蓄えてるのってこの４人か他の魔術師とか冒険者なんだけど…。う～～～ん…」
「その様子じゃ５分って所か。…星の期限は残りどのくらいなんだ」
「最短３年ってところかな…」
「…少ねぇな…。………とりあえず、１年待ってみるか」
「どういうこと？」
「その間にこのヘッポコ勇者さまがレベル上げてくれるんならそれでヨシ。眼鏡に叶いそうに無いなら、コイツ殺して次の勇者を即座に仕立ててみる、それしかねぇだろ。その間に調整が必要ってんなら、勇者候補以外を殺れば、少しは時間稼げるんじゃないのか」
「わー。アーサーくん非道だー」
「てめぇに言われたくねぇ。つーワケでフェリシアーノ」
今まで茫然とこちらの様子を眺めるだけだったフェリシアーノにアーサーは笑みを向けて、目の前まで赴くと、おもむろにそのロッドで横っ面をひっぱたいた。悲鳴が上がってフェリシアーノが床に沈む。
その腹に足を載せてアーサーは宣言した。
「猶予は一年だ。それまでにお前が使い物にならなけりゃ、人間の人口が即座に半分になると思えよな？」
「アー…サー…やめて…」
「お前がそれだけの働きをすれば、死ぬ人間の数をそれだけ減らしてやるよ。…全てはお前次第だ。人に頼るんじゃねぇ。分かったな」
「………アーサー」
ぼろりとフェリシアーノの瞳から大きな涙の粒が零れ落ちる。
アーサーはそれを無表情に見下ろしてから、嘆息した。
「…お前が本気になるのが、一番早いんだって事、分かってるのか、お前。お前が本気になれないっていうのなら、そうだな。お前の幼馴染に似てるっていう、ルートヴィッヒを人質にとっておくか」
「！」
「コイツをいたぶってやれば、ちょっとはその気になるか？…そうだな、コイツはお前の代わりになって貰おうか。コイツも一応勇者候補だし、それなりの能力があるからな。コイツを死なない程度にいたぶっとけば、それなりに星の力は発散出来るだろ」
「やだ！やめて！！」
「決めるのは力の無いお前じゃない」
「…っ」
「そんで、お前が強くなれなけりゃー…勇者候補だが、お前の目の前でコイツから殺してやるよ」
「…っ！」
「それが嫌なら―…分かってるな」
「～～～～」
「期限は一年。それまでにその根性どうにかしろよな」
宣言してアーサーはロッドを奮った。風の魔法が発動して、ルートヴィッヒとイヴァン以外が敷地外の遠い所に飛ばされる。魔力を多大に消耗して、アーサーは今度こそ膝をついた。
「アーサーくんってば無茶するなー」
「…仕方ねぇだろ。この魔法使えるのは俺だけなんだから…。勇者候補全員殺すワケにもいかねーし…」
「そうだけどさ。…ねぇ、君、一体何を考えてるの？」
「何がだ」
「アーサーくんってば世界の犠牲とかそういうの向いてないじゃない。なのにどうして魔王なんかになったのかなって」
「…そんなの、俺が生き残る為の一番の有力候補がそれだけだったってだけだ」
「ふーん。…ねえ」
「………なんだ」
「もしかして気づいてるんじゃない？」
「………」
「アーサーくんが言わなかったから今まで黙ってたけど、アーサーくんって実は気づいてるでしょ」
「…」
「あはっ。図星なんだ。勇者と魔王候補の中に、アルフレッドくんとマシューくんが入ってるって気付いたからこんな事しでかしたんだね」
「………」
「僕、さっき対になってるって言っちゃったもんねぇ。君をあのパーティにスカウトした時、僕あの子達に会ってるし。アーサーくんはあの二人が『次』に選ばれるんじゃないかって危惧したんだね」
「…それがどうした。何だよ。俺が魔王になるんじゃ何か不服か」
「ううん。君は話が通じるし、結構容赦ないし、頭の回転も速いみたいだから、こうなって良かったかなって思ってる」
「そうかよ。じゃあ、こっち手伝えよな」
「アーサーくん人使い荒らそうだよね」
「使えるモノを使って何が悪い。嬲り殺されそうなところ助けてやったんだんだし、元々お前の仕事でもあるだろ。キリキリ働け」
「僕にそんなサービスついてないんだけど仕方ないなぁ。これが僕のお仕事だもんね。いいよ。出来る範囲で協力してあげる。まずは、君たちに殺されずに残った魔族の中からアーサーくんの側近を作るのでいいかな？」
「ああ。―俺は少し、休む」
「じゃあ、またね、魔王くん」
空っぽだった玉座にアーサーが腰を下ろして目を瞑ったのを確認して、イヴァンは微笑むと、宣託師の能力であるテレポートを使って虚空へと消えた。

再びこの塔が戦場と化すのは、約一年後のこと。

END

後書き

すみません。説明不足過ぎてさっぱり意味分かりませんね。そして色々力尽きた結果最後の方会話しかないです。ごめんなさい。水野です。
あと、アップが予定より遅れてしまいました。ごめんなさーい！

私、RPG結構好きで、以前からRPGモノ書いてみたいな～って思っていたんですが、
まさかのクライマックスだけ書いてしまいました。
クライマックスオンリー過ぎて、読んで下さる方は何が何やらさっぱりだろうなぁ…と遠い目をしていました。ごめんなさい。
でも、出会いの最初から書いて２部構成に分けてラストまでとか、番外編とか、内容的にもどう考えて無理で…、本当にすみませんでした(><)
格好いいアーサーさんが書きたかったんですが、何というか、色々不発な感じですね。後フェリちゃんが可哀想なことになっていてごめんなさい…！大好きだよ、フェリちゃん！

続く≫

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