七転八倒堂




後味の悪いRPG~連理の枝~

※最初っからクライマックスで、色々と酷いです。後味悪いです。
パラレル。


なんかアーサーが格好いいだけの話が書きたかったんですが、
色々と酷いだけの話になりました。ごめんなさい。
後書きがちょっと露英風味。



◆分かり辛い設定◆



複数の足音が薄暗闇に覆われた塔に反響する。
この階段を昇り切れば、世界を混沌に落そうとする魔王とのご対面だ。
勇者フェリシアーノとその一行は宣託師ブランギスキが示した魔王の根城に導かれるがままに足を運んで塔の最上階の目指した。敵を薙ぎ払って扉を開く。…と、そこには…
「………あれ?」
鬱々とした灰色の内壁に囲まれた殺風景な部屋の真ん中。そこだけが豪奢な、恐らく魔王が座っているだろう椅子は、何故か空っぽだった。
普通こういう場面では魔王が待ち構えているものではないのだろうか。
「…ヴェー…魔王さん留守かなぁ?」
「なんや~?魔王が留守ってどうなん?トイレやろか?」
「トイレに行く魔王とかお兄さん嫌だな~」
「トイレくらい許してやれよー」
「いや兄さん、そういう問題ではない」
「…これは一体どういう事だ、ブランギスキ!」
フェリシアーノ抜けた観察の言葉に続く微妙な相の手の最後、アーサーが虚空に向かって叫ぶとしばらくして「遅れちゃったー」と宣託師であるイヴァン・ブランギスキが何も無い空間からぱっと現れて困ったような顔をした。
「ごめんね、皆ー。魔王くん死んじゃったんだー…」
「「「「「「…ええええええええええええええ????!!!!」」」」」」
一体どういう事だ、という言葉がそれぞれの口から飛び出る中で、一人フェリシアーノは「わ~、じゃあ俺達戦わなくてもいいの~?」と一人無邪気に喜んでいる。
それを見て勇者フェリシアーノの仲間は肩を落として脱力を表した。
「…今までの苦労は一体何だったんだよ…」
「いや、苦労はそれ自体に意味があってだな…」
「おいルッツ、それは現実逃避じゃねーか?」
「でもまー、戦わずして世界平和が保たれるんならいいことなんじゃなーい?」
「フランシスお得意の漁夫の利か~」
最初から喜ぶ人、脱力した人、現実から目を逸らしたい人、立ち直りの早い人々、それぞれがリアクションをしたのを見計らって、イヴァンは首を傾げてから爆弾発言を落とした。
「皆何か勘違いしてなーい?僕、一言も世界は平和になりました、なんて言ってないよ?」
ピタリとお喋りが止まって、辺りが静寂に包まれると、イヴァンは「あのね」と気負うことなく、話の先を続けた。
「魔王くんが死んじゃったから、フェリシアーノくんに死んでもらわなきゃいけないんだー」
途端に空気が凍りついて、その場の体感温度が数度下がったような気になった。
皆の体を嫌な予感が駆け抜ける。
「…どういうこっちゃ」
「理由、聞かせろよ」
すっと青褪めたフェリシアーノの前に兄貴肌であるアントーニョとギルベルトが立ちはだかる。イヴァンは特に気を害するでもなく、「うん」と頷いた。
「あのね、この世は100年に1回、勇者と魔王が産まれるのは皆知ってると思うけど、どっちかが死んじゃえば、この星の均衡が保たれるってわけじゃないんだよねー」
「……なぁに、それって『勇者』が『魔王』を倒さないといけないとかそういう話なの?」
「うーん、厳密にいうと違うんだけど、そんな感じかなー?別に『勇者が魔王を』倒さなくても、『魔王が勇者を』倒すんだって、別にこの星の均衡は保たれるんだけど、勇者が勝った方が僕の仕事がしやすいから、なるべく勇者に勝って欲しかったんだけどー」
「お前の『仕事』…。お前の仕事は俺達に対する『宣託』なんかじゃなかった…んだな」
確信に迫らないながらもどうやら自分達の思い描いていた『宣託師』像とはかけ離れていた様子にアーサーが険しい顔で呟くと、イヴァンはぱちぱちと瞬きをした後でこてんと首を傾げて否定した。
「んー宣託は宣託だよ?でも、それが『勇者を導く』為だけの宣託じゃないってだけでね?」
「それは、どのような意味なんだ」
『勇者を導く為だけじゃない』という言葉に、フェリシアーノを背後に庇ったルートヴィッヒが厳つい体格を緊張に漲らせながら問うと、イヴァンは「あのね」といっそ幼子のような様子で口を開いた。
「僕が受ける宣託は星からのものなんだ。この星、僕達が生きるこの大地の宣託を受けて星の寿命を延ばしてあげるのが、僕の仕事。100年に一度、この星が自分の中に溜め切れない膨大なエネルギーを勇者の卵と魔王の卵にして渡してくるから、僕はこの星を守る為に適当な人や魔物に勇者の卵と魔王の卵を植え付けるんだけど…」
「そんなら、フェリちゃん勇者にしたんはお前…っちゅう事か…?」
アントーニョが茫然とした様子で尋ねると、イヴァンは素直にうんと頷いた。
「意図して見つけたんじゃなかったけど、二人とも素質のある対みたいだったから。そういうのの方が別々に勇者と魔王倒させるより、相性いいんだー。効率よく発散させてくれるっていうのかな?それに彼は物凄くフェリシアーノくんに惚れてるみたいだったし、彼が魔王になったらフェリシアーノくんに倒されてくれるかなーって思って。魔族が勝っちゃうと、人間減っちゃうから次の勇者探すの大変なんだぁ」
「なあ、今の話聞いてて思ったんだけどよ…。魔王…元人間じゃねーのか」
ギルベルトの引き攣った声にも、イヴァンは躊躇いなく「うん」と頷く。
「最近は魔王も人間から選んでるよ。勇者はどうも魔族からは輩出しにくいみたいだけど、魔王は人間からでも大抵大丈夫だもの。元人間だったら、勇者に倒されやすくなってくれるし好都合なんだー」
一応適正もあるから誰でもいいわけじゃないんだけどね、とイヴァンはトレードマークのマフラーを揺らしながら溜息をつく。それを一同は言葉もなく見返した。連綿と続く勇者と魔王の伝承。それが根幹から崩れていくような感覚。ぞっと背筋に怖気が走った。全身に得体の知れない人物に対する恐怖と嫌悪を感じて鳥肌がたつ。
「ねぇ…その魔王って…誰、なの…?」
年長二人組の更に後ろ、ルートヴィッヒの影に隠れるようにしていたフェリシアーノが喉から声を絞り出すようにしながら真実を見分けようとするようにまっすぐイヴァンを見据えると、イヴァンは「ごめんね名前は忘れちゃった」と言った後、
「ああ、でもね、ほら、ルートヴィッヒくんに似た君の幼馴染だよ」
と、そう。笑って続けた。
フェリシアーノの瞳から透明な涙が溢れだし、灰色の石畳で出来た床を打つ。
「なんで…なんで…!!」
がくりと力を失って座りこんだフェリシアーノをルートヴィッヒが慌てて支え、フェリシアーノを守るように立っていたギルベルトとアントーニョの双璧は一気に殺気を噴出させた。
「てめぇ…!」
「お前ぇ…!」
ギルベルトにとっては身内であり、アントーニョにとっても遠縁であるフェリシアーノの幼馴染の突然の失踪。年も離れていたので特に凄く仲が良かったというわけではないが、幼子の二人がどれだけ仲睦まじく、そして彼の失踪後のフェリシアーノが痛ましかったかは、二人の記憶の中に鮮やかに残っている。その裏にこんな茶番染みた話があったと知っては、いくらこの星を守る為だと言っても、武器を構えて今にも突進しようとしても誰も責められるものではないだろう。
「!」
だが、ガッ、と二人が石畳を蹴る音とほぼ同時。アントーニョとギルベルトの行く手を阻むように火柱が出現して二人は足を止めざるを得なかった。
ごうごうと燃え盛る炎のカーテンはまるで宣託師を庇うように二人の進路を阻んでいる。炎の先には一転憎い宣託師が垣間見えるのに、手出しが出来ない状況に追いやられてアントーニョは魔導師であるアーサーを振り仰いで一瞬言葉を失った。
「…眉毛お前ぇ…。一体何しとんねん!!」
他に攻撃が来ないかと宣託師から目を離さなかった方のギルベルトはアントーニョの言葉でこの炎のカーテンが仲間のモノだと知ると、宣託師に動きがないのを確認してから剣を下ろして振りかえった。
仲間の魔術師であるアーサーは、一同から視線を集めて溜息混じりに発光するロッドを一旦下ろした。同時に炎が掻き消える。
「お前らもう少し落ちつけよ…」
「なんや眉毛!何しとんのか分かっとんのか、自分!」
「何してるのか分かってねぇのは、お前だ、アントーニョ」
「なんやと?!」
宣託師に向けられていた足をアーサーに向けて襟首を締めあげれば、アーサーは息苦しさに眉根を寄せつつも眼光鋭く目の前にあるアントーニョの怒りに染まった顔を睨み返した。
「宣託師殺してどうするんだ。アイツがこの星の運命握ってんのは間違いない事実だろうが」
「やからってなぁ!!お前には血ィ通ってないんかい!こんな事されてよぅ黙っておられるわ!!」
「ちょっ、待って待ってアントーニョ…!!」
「なんやお前もこの眉毛の味方かいな!!」
今にも噛みつきそうな様子のアントーニョを止める為にフランシスが口を挟めば、炯々と輝くアントーニョの視線がフランシスに注がれて、フランシスは「今は仲間割れする時じゃないって!」と慌てたように首を振った。
「この眉毛なんか仲間やないわ!」
「ちょっ!トーニョっ!それは言い過ぎだって!」
「何がや!そもそも俺はこの眉毛なんかパーティに入れたくなんてなかったんや!」
「アントーニョ。」
「何するん、ギルちゃん!!」
ごすっと手加減はされていたが後頭部を殴られて、今度はギルベルトに視線を転じる。アントーニョの視線の先にいたギルベルトは険しい表情のまま「離してやれよ」と溜息混じりに公言した。
「アーサーの言い分にも…一理ある」
「なんで俺を止めるねん…!しばかなあかんのはコイツの方やろが…!アイツの事だけやのうて、イヴァンはフェリちゃん殺す言うとんねんで?!」
「俺様だってフェリシアーノちゃん殺させるつもりなんてねーよ。でもな、『どうして』フェリシアーノちゃんを殺さなきゃいけない状況に置かれているのか、知ってんのはあの宣託師だけなんだよ」
「それに、フェリシアーノ殺させないにしても、星が滅んじゃったらフェリシアーノ諸共みんな死んじゃうからね?だからまずはイヴァンのお話聞きましょ?って話でしょ?」
「………」

続く≫

≪new[3] NOVEL back≫

[0]TOP。